自選100句を読む/高橋正子

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■私のすきな句/林 暁兵■

緑陰のパントマイムは生真面目に
シンバルのふたつに割れて冬来る
雪解けの水嵩高く押してくる
折り紙はでんでん虫とや黒目勝ち
キレットの秋やざらりと鎖鳴る
羅の僧地下鉄の客となる
切り株は真新しくて十三夜
長き夜に広げてみるや山の地図
外套を着しまま会って別れけり
喉反らしコップ二杯の寒の水

ぐんと力で押してくる骨太な句と、自身の心を楽しみ、肩の力を抜きりラックスした句があるように思いますが、どちらもいいですね。<切り株は真新しくて十三夜>は、特に印象に残りました。


■私のすきな句/多田有花■

寒暁の光を返すナイフの刃
雪消水集めせせらぎ音高し
羊歯萌えてしんとしている雑木山
行者道おりてカップに清水汲む
両腕の日焼けが留む山の色
シベリアの秋茫々と湖の数
夕月の異国の街へ降りにけり
秋澄むや明日踏む峰を指差せり
秋の暮窓に寄り添い日記書く
白菜のみずみずしきを横抱きに

山の俳句が圧巻です。素材の良さと、きっぱりとした対象の把握で簡潔な句となって、読後感がさわやかです。<秋の暮窓に寄り添い日記書く>には、少女のような健やかさを感じました。


■私のすきな句/日野正人■

朝霧の玄関声が先に入る
渦巻きの次々生まれ水涼し
こおろぎの声星々に届く夜
コルク栓抜けば月夜に音残す
若布浸(か)して海の記憶を取り戻す
寒雀朝を引き寄せ木から木へ
暖炉の火の揺らぎの満ちて子の寝顔
つくつくぼうし鳴くたび空色塗り替える
冷やっこ葱の青色一つ盛る
白菜の水の重みを一枚剥ぐ

対象の捉え方が、ユニークで、独自なものを表現しようとする工夫が見られて楽しい句です。<つくつくぼうし鳴くたび空色塗り替える>には、児童絵本に重なるようなイメージがあります。読後、涼やかな気持ちになります。


■私のすきな句/藤田洋子■

遠ざかる風船は今空のもの
青梅の笊を濡らしつ香を満たし
差し水に百合の真白が開ききる
日焼け子が海の香させて寝息立て
透き通る子らの歌声秋立てり
全開の蛇口にあふる春の水
手のひらの雛あられどの色も揃う
つやつやと利休饅頭月高し
鋏入れ菊のしずくと香にまみる
西に入る日は赤々とお正月

人柄の「やわらかさ」と「やさしさ」が、印象に残ります。<遠ざかる風船は今空のもの>は、完成された句と思います。


■私のすきな句/相原弘子■

梅林の蕾の青くあり晴れる
かたわらに人の声あり梅白し
雛あられ音の軽きを添え供え
原木の長さを運ぶ日の盛り
間引き菜の束の軽きを解き広げ
新米を量る一合升の張り
甕に水新しく張り十三夜
麻紐の荷物を解いて灯の親し
でこぼこと香るがままに柚子篭に
田の中の棒の一本霜の色


■私のすきな句/霧野萬地郎■

 イギリス
カウベルの音のみ聞こゆ霧深し
 スイス
牛の列飾り囃して秋祭り
 スェーデン
息太く雪踏み喘ぐ黒き荷馬
 フィンランド
春寒や子の洗礼に大家族
 ポルトガル
路地の秋小さな金の細工店
 インドネシア
年歩む亡父の戦地はなお奥地
 インド
象御して裸少年街を行く
 紹興
荷駄の甕揺れて新酒の音がする
 香港二句
春節や都市から都市へ飾り船
朝霧の晴れて艀の先ず動く


■私のすきな句/やぎたかこ■

雪晴れや四角に広げふきん干す
雪解水たっぷり蒼く街を縫う
チューリップの花刈る音の朝空に
立山のぐっと近づく柿若葉
スケッチの目を夏雲の湧くあたり
吾亦紅稜線ついに見えざりき
信濃路や陽をふっくらと稲架襖
米櫃を磨き新米入れにけり
青竹のまだみずみずし雪囲い
大根の葉をゆさゆさと持ち帰る


■私のすきな句/古田けいじ作品■

初孫の丸さと湯上がり夏座敷
レタス出荷トラック霧の坂下る
梅漬ける母の残せしまろき石
うぐいす笛窓の光に吹いてみる
ドナウ河下流へ白き夏の蝶
冬木立寄れば入り日の温度あり
咲きかけの黄薔薇とアンネフランクと
日に焼けし物売りかじる青りんご
流れ星穂高の峰を渡りけり
木の実独楽歩き始めし子へ廻す


■私のすきな句/北村ゆうじ作品■

葉の青さ実梅の青さ山濡れる
がんがんと備長熾す土用の火床
仏壇の絵ろうそくには秋の花
露天湯も灯りキチキチよく鳴くよ
たわいなく妻と賭けする梨の重さに
秋水へ釣っては返す釣師かな
「野菊の墓」へ矢切の渡し秋日和
ふっと風吹いて銀杏落ちる音
ほらあれが妻よアルプス遠雪嶺
裏白のくるりと反って年暮れる

ゆうじさんの句には、ふっとした寂しさがあります。それがしみじみとしていて、人間の止むを得ぬ寂しさかとも思います。


■私のすきな句/野田ゆたか作品■

独楽回るとき古傷は眼につかず
雪解光集めて湖の碧さかな
雨量計黄砂混じりを計量す
労働歌職にある日の遠退きぬ
彫り上げて木屑匂う麦の秋
視野高く置きて寸又の星涼し
原爆忌浜辺に白きうつせ貝
新涼やくるりと向きの変わる椅子
長き夜や煙草切らしてより欲しく
波尖る十一月の日本海


■私のすきな句/堀佐夜子作品■

カトレアや何処へも行けぬ妻なれば
駄菓子屋の店先子らの独楽はじけ
青空の寒天作り能勢の里
シクラメン明日は真紅の花と思う
たて髪の奥の馬の目涼しくて
花鋏音する度に露こぼる
露草の青い空気へ車椅子
稲の今すっくすっくと天に向き
光るものひとつ身に付け冬の街へ
若草に我が両足を立たしめる


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