句集の序文/高橋信之

【T】
[祝恵子句集] [平田弘句集] [下地鉄句集]
【U】
[高橋正子句集] [戸原琴句集] [堀佐夜子句集] [安丸てつじ句集] [野田ゆたか句集] [原順子句集] [藤田裕子句集] [岩本康子句集] [柳原美知子句集] [古田けいじ句集][水煙合同句集] [野上哲斉句集]
【V】
[碇 英一句集] [霧野萬地郎句集] [吉田晃句集] [相原弘子句集] [北村ゆうじ句集]


祝恵子句集「藤棚」


 祝恵子さんとの初めての句会は、大阪城の近くで、そのときの句は、初心者とは思えな
いレベルの高さがあった。写生を超えて作者の心境を詠んでいた。
  
  大阪城
 空堀をのぞけば深し蝉時雨

 恵子さんは、寡黙なので、それが幸いして観察の眼がいいのである。深くを見ているの
である。
 幼子たちを見ていても、孫たちを見ていても、対象に溺れることがなく、行き届いたと
ころの優しさがいい。

 幼子は見るたび丸く初笑い
 園児らは指めがねで春空さがす
 キャンプ地へ子は長靴を持ってゆく
 児は透けし袋に水着持ち帰る
 またあした子らは手を振り大晦日

 恵子さんの俳句の良さは、日頃の生活の良さから生まれたものに違いない。台所を預か
って身近な句材を詠んだ句がいい。

 水満たし七種の色浮かしおり
 冬瓜の清しき白をサクと切る
 秋野菜重さを胸に抱きもらう
 白菜は真二つに割かれ干されおり

 家族を詠んだ句に

 初節句子に孫に喜びもらう
 夫と飲むラムネ昔を透かし見る

があり、思いが率直である。

  佐賀の実兄山口年也
 がっしりと藤棚作り房あまた

 この句は、恵子さんの代表句の一つだが、「がっしりと」がよく、「房あまた」がいい。
家族のいい絆を読み取ることが出来る。
 恵子さんは、家族という共同体の要に居られるが、私たちの雑誌「水煙」という共同体
の要の一人でもある。水煙の全国大会では、いつも受付を引き受けていただく。水煙の大
阪事務局では、そのスタッフとして堀佐夜子さんと働いていただく。
 句集「藤棚」は、私たちの「水煙」を代表するもので、この句集を世に出すことが出来
たことを嬉しく思う。その中の句で、私の最も好きなのは、

 蒲公英の数本は吾が影へあり

である。控え目であって、優しく、観察の眼に深いところがあるのは、恵子さんらしい。

  平成十七年六月
               高橋信之


平田弘句集「翔ける」


 弘さんの俳句は、その姿勢が正しいが、自然体で、力の入ったものではないので、読み
手に伝わってくる調べがやさしい。

  湯河原 
 梅林を透す日差しが空の色
  安曇野
 山葵田の水清ければ音も澄み
 木の独楽の色鮮やかに回りだす

 この快い正しさは、長年の精進の結果で、日常生活の正しさでもあろうと思う。

 あせらずに只ひたすらに田草取る
 鳴るまでを草笛替えて吹き続く
 秋高し図書館に通う脚軽き

 弘さんの俳句は、八十歳を過ぎてから始められたものなので、穏やかな句が殆どだが、
回想句を読むと、青年時代の過酷な歳月がある。第二次世界大戦でのニューギニア戦線で
は、「沼地の露営」という前書きの

 露営地を夜中に通る鰐の跡

があり、「出発の間際の高熱の教え子をテントに引き取る」という前書きの

 看取る友最後の叫びに母と言う

がある。弘さん自身は、

 敗戦日迷迷として生を選ぶ

の句を残した。「生を選ぶ」ことによって、ご両親に如何ほど喜んでいただいたことであ
ろうか。また、ご家族の「生を選ぶ」ことでもあった。父母の句に

 捕虫網担ぐ後ろに父の影
 切干の日向の香り母の味

があり、また、妻子を詠んで、

  妻田鶴子
 花束の中より散らばる実千両
  長女純子
 獅子舞を手振り身振りで子に教え

があり、弘さんは、優しいのである。この優しさが「生」を選んだに違いないが、芯の強
さがあっての優しさである。

  自宅
茄子の苗己に見立て骨太に
岡崎に住みしころ
蓮根掘る節を連ねる逞しさ

 句集「翔ける」を読み終え、私も「生」を選んだことを句集の作者とともに喜びたい。
その実感は、この句集出版によって得られるに違いない。句集「翔ける」は、多くの読者
を得て、「生を選ぶ」ということに共感を抱いていただくことであろう。

 平成十七年夏
            高橋信之


下地鉄句集「伊集の花」

 下地鉄さんは、那覇の隣の浦添に住んで、沖縄の身近な風物を詠んでいる。

 山原(やんばる)路香り辿りて伊集の花
 マンゴ切る種子の平らに逆らはず
 受け継ぎし俎板ありて瓜きざむ
 冬ゴーヤ濃き緑をばぶつ切りに

 伊集の花は、梅雨の頃、山原(沖縄本島北部)の山々に真白な花を咲かせ、ほのかな香
りを漂わす。ゴーヤは、沖縄の野菜だが、今は、四国でも店頭にある。
 下地鉄さんは、身近なところに強い関心をもって、沖縄の佳句を詠まれるが、亡き妻を
詠んでも読み手に訴えてくるものがある。

 君愛でしつつじを活けて仏間かな
 紫桔梗つぼみの侭を妻に剪る

 第二次世界大戦が曾てあったが、六十年前の凄惨な沖縄戦を忘れてはならないであろ
う。

 滴りに母呼び果つる壕の戦友
 沖縄忌残りし友と電話する
 海鳴りの遠くにありて慰霊の日

 句集「伊集の花」は、力のある句が揃った。その中での私の好きな句を挙げるとすれば、

 守宮鳴く人の恋しき夜となり
 コスモスの触れ合いながら日を惜しみ
 薄穂の一揺れごとの日を反し

がある。これらの句が世に出て、多くの読者の共感を得るに違いない。

平成十七年六月
         松山   高橋信之


水煙ネット