■さら句会/入賞発表G■

第46回(10月3日)〜第50回(10月9日)

■第50回入賞発表(10月9日)/高橋正子選評


【金賞】
★ともづなを露けき岸に解き放つ/平野あや子
船のともづなを、朝早い岸に解き放つ。ひんやりとした朝の空気や、ひたひたと寄せる波の音が、肌に耳にと受け止められる。「露けき岸」が、人の生活のいきいきとした一場面となっている。

【銀賞】
★稲孫田(ひつじだ)の水満ち張りて緑立ち/相沢野風村
「水満ち張り」は、満ち足りて降った雨の後の田の様子なのであろう。ひやひやとした気配に緊張感があって、稲株から出た、新しい芽の緑に力強さを与えている。

【銅賞】
★静かなり妻と来ているバリ良夜/古田けいじ
「良夜」の季語が良く効いている。バリの月の美しさを「静かなり」とのみ受け止める夫と妻の若いころがゆらゆらと見えるようである、バリの旅の終わりであろうか。


【特選5句】

★稲を干す真上に高き空の青/吉田晃
稲の黄色と空の青が、大胆に捉えられ、「真上」の空の力強さをよく表現している。稲と空とがあい生み出す世界に気迫がある。

★鴨の群れ割れてまた寄る湖の上/磯部勇吉
★柿もみじ池の深さに映りける/宮地ゆうこ
★開閉橋貫き霧の奔流す/おおにしひろし
★秋冷の胸に真珠を抱きおり/柳原美知子


【入選19句】

★曼珠沙華蘂張りしまま色褪せぬ/藤田洋子
★廃工場黄カンナに風過ぎゆけり/加納淑子
★石山を背にま白き薄かな/下地鉄
★空風にマント鮮やかマサイ来る/多田有花
★宙を蹴る赤子の足に秋晴れて/脇美代子
★湯気のぼる新米をまず亡き母に/冬山蕗風
★鬼の子のちちよと鳴きて昨日まで/小峠静水
★天麩羅の紫蘇の実美味と扱き食む/都久俊
★赤そばの花は森に縁取られ/河野斎
★浜風に茎くねらせて磯の菊/大給圭泉
★制服に赤い羽根の子駆けてゆく/岩本康子
★湾囲む窓々染めて秋没日/池田多津子
★和菓子屋の暖簾吹かるる秋の風/山野きみ子
★虫の声敷き広げたる蕎麦畑/碇英一
★山畑を囲みてお茶の花咲けり/澤井渥
★ゆるゆると観光風車や秋の雲/岩崎楽典
★うそ寒に充電せねば車椅子/堀佐夜子
★木漏れ日を受けて落ち栗つやつやと/池田和枝
★尼寺の小さな庭に彼岸花/祝恵子


▼選者詠/高橋正子
コスモスのあか色強く胸に沁む
菊に菊並べて花屋の日を集む
コスモスの寺苑の外に咲き出でず


■第49回入賞発表(10月8日)/高橋正子選評


【金賞】
★天高し組み体操はしかと立つ/祝恵子
組み体操が青空に高々と出来上がり、父兄たちの拍手と歓声が上がる瞬間である。「しかと立つ」は、若さをすっきり捉えている。

【銀賞】
★棚田刈って棚田ごとの稲架に架ける/おおにしひろし(信之添削)
中身が盛りだくさんなので、破調として収めた。架ける「稲」は、言葉に無いがこの句の主題である。

【銅賞】
★ゴンドラの秋野引き上げ皆歓喜/大給圭泉
ゴンドラが秋の野の上をすべるように上ってゆくと、秋野も連れ上るような感じである。次々に見える秋野の美しさに、思わず乗客の歓声があがる。美しいものを、美しいと喜ぶ素直さがよい。


【特選5句】

★秋薔薇の茎高くして花赤き/吉田晃
秋薔薇の毅然とした一本を詠んでいる。「花赤き」と詠んで、毅然とした静かな姿にも、薔薇自身の持つ華やかさを忘れてはいないところが深い。

★相模湾のぞむ段畑青蜜柑/石井信雄
★風吹いて花野は花野へ伝わりぬ/都久俊
★星月夜水滑らかに堰を越す/小峠静水
★瓶に挿しジンジャーの香の忽ちに/碇英一


【入選19句】

★折鶴の何時しか出来る秋しぐれ/堀佐夜子
★鮭の背の水より出でて遡る川/守屋光雅
★土手渡る風は透明吾亦紅/藤田洋子
★栗の毬掃き寄せられて陽の中に/池田多津子
★校庭の蛇口上向く運動会/能作靖雄
★鈴の音の途切れぬ札所の秋日和/池田和枝
★湯壷より汲む温泉の香る霧時雨/平野あや子
★朝冷や机上平たく清められ/日野正人
★蕗摘み摘み分け入る野山風の中/冬山蕗風
★秋夕焼け見上げる人の顔あかし/岩本康子
★秋耕の石灰の玉斑になり/相沢野風村
★葛からむ鉄条網の尖りまで/大石和堂
★老人の木陰に西瓜齧り売る/古田けいじ
★固かりし蒲の穂絮を飛ばしけり/磯部勇吉
★破れ垣に咲く朝顔の濃く開く/加納淑子
★ランニング庭に一つの石榴熟れ/津村昭彦
<ケニア>
★蚊帳円く吊られロッジのベッドかな/多田有花
★透けてくる冬瓜箸につと凭る/宮地ゆうこ
★籾殻の煙棚引く朝の田に/岩崎楽典


▼選者詠/高橋正子
新米と塩と神輿にうやうやし
コスモスに寺大屋根の甍古り
朝寒に灯をも円らに沖の船


■第48回入賞発表(10月7日)/高橋正子選評


【金賞】
★空稲架(からはざ)の軽きところに雨が降る/小峠静水
稲木に稲の架かっているであろうはずのところに、稲が架けられていない。それが、軽きところである。稲木の棒が見えて、心の荷をおろしたように軽い。雨の降るさびさびとした様子に風情がある。

【銀賞】
★嬰の目の澄みしが真直ぐ秋高し/加納淑子
みどり児は抱かれているのであろう。澄んだ瞳は、真っ直ぐに秋空を見ている。みどり児の瞳と秋空が映りあうようである。

【銅賞】
★舌先に紫蘇の実弾く音軽し/平野あや子
舌先にぷちぷちと紫蘇の実がはじける。その小気味良い食感は、普段の飾り気の無い食事の楽しさである。


【特選5句】

★秋雲のみな石鎚の峯に湧く/おおにしひろし
石鎚山は西日本一の高峰であるが、松山市内からは、南東にその特徴的な嶺が眺められる。「秋雲のみな」湧くと言っても、言い過ぎではない。石鎚に従う遠嶺の空は、南東から東へひろびろと広がっている。

★黒土の艶めき跳ねてえんま蟋蟀/宮地ゆうこ
よく肥えた黒土の艶を、これもつやつやしたえんま蟋蟀が力強く跳んで、土と生き物の確かな力を、ここに感じさせてくれている。

★朝霧や岸に出船の音響く/高橋秀之
★朝日まだ蒼き氷河に至らざる/多田有花
★秋祭り夜の更けるまで鈴の音/日野正人


【入選19句】

★昇る陽の方へ投網の漁夫二人/古田けいじ
★小鳥来るふいに干潟のざわめけり/池田和枝
★秋草に雉の動きて視野に入る/守屋光雅
★山の村蕎麦の真白に囲まれて/池田多津子
★手を拡げ乗る一輪車赤蜻蛉/岩崎楽典
★みよちゃんも摘み僕も摘み赤まんま/冬山蕗風
★門灯のひとつふたつと秋の暮/相沢野風村
★水揚げし漁船の並ぶ秋の浜/石井信雄
★銀杏の目の覚める青茶碗蒸し/右田俊郎
★宮出しの神輿送りてさやけしや/藤田洋子
★出勤は背広も濡れしあけ嵐/津村昭彦
★蕎麦の花人生の秋軽ろ軽がろと/碇英一
★秋桜テトラの傍まで叢りて/都久俊
★豆腐屋のラッパ行き交う秋の路地/澤井渥
★コスモスの観光田圃の畦歩く/祝恵子
★敗荷の影を沈めて湖静か/磯部勇吉
★よべの雨止みて青空秋の雲/堀佐夜子
★身も染まるいけどもいけども紅葉なり/大給圭泉
★誰やねむる色なき墓に曼珠沙華/藤田荘二


▼選者詠/高橋正子
青笹も幣も掲げて秋祭り
宵宮の声の過ぎけり風やあらむ
櫨の実のつきし並木の港まで


■第47回入賞発表(10月4日〜6日)/高橋正子選評


【金賞】
★伐採の音こだまして秋深し/宮地ゆうこ
森閑とした森に響く伐採の音に、秋の深まりを感じた。その通りの句だが、そ杣山にいる自分にも深く秋が及んでいる。その実感は何ものにも代えがたい。

【銀賞】
★インド洋へ続く深みへ泳ぎ出る/古田けいじ
バリ島での一連の句であるが、「深みへ泳ぎ出る」は、けいじさんらしいところである。インド洋へと続くバリ島の海の深さ。そこが明るく楽園のようなだけに、「アジアのかなしみ」が、海の深さに重ねて感じられる。

【銅賞】
★団栗を踏めばめり込む森の径/岩崎楽典
森の小道は、木の雫や滴りで湿っている。落ちて間もない団栗も踏まれて、森の土にめり込む。秋の森のひんやりとした森の静けさがと伝わってくる。


【特選5句】

★萩叢の奥へと風のゆきまどう/大給圭泉
萩の枝を吹く風と違い、萩の葉むらに、風が入ると風は抜け惑うことになる。「ゆきまどう」は、当を得た表現で、萩の葉むらが風を含んで揺れる柔らかな動きが、目に見えるようである。

★星月夜紀伊より流木流れつく/平野あや子
★急行や秋の燈連れて滑り出す/日野正人
★帯低く締めて定まる菊日和/山野きみ子
★秋冷の山峡の地にバス入れり/岩本康子


【入選30句】

★秋天に玉いれの玉乱れ飛ぶ/馬場江都
★窓ガラス拭いて秋空曇りなし/池田多津子
★草の花束ねてひと日母を訪う/脇美代子
★妻作る無花果ジャムをトーストに/安丸てつじ
★高層のビルの欠きたる星月夜/霧野萬地郎
★人待つや駅の時計の秋灯す/磯部勇吉
★秋空にラリーの続く安定感/右田俊郎
★暮るるまで鋏の音や松手入れ/祝恵子
★新筵の上に舞いいる子供獅子/澤井渥
<ケニア山レナナピークへ>
★雪やんで空衝く峰を仰ぎけり/多田有花
★鵙猛る山に生木のにおい満つ/宮地ゆうこ
★朝寒の陰をちきってパン・レタス/小峠静水
★実柘榴の爆ぜし半夜の雨あがる/おおにしひろし
★山門の新築工事秋高し/守屋光雅
★葱の根を洗っては切る川の音/柳原美知子
★真新しい脚立跨いで松手入れ/堀佐夜子
★累々と駐車の車鰯雲/戸原琴(正子添削)
★初紅葉手押し車の母と行く/能作靖雄
★団栗を踏みて下るハイキング/津村昭彦
★秋天へ伸ばせしアーム荷役船/野田ゆたか
★縁側に影落とし行く吊し柿/青海俊伯
★栗の殻剥く手さばきに宵の灯り/冬山蕗風
★秋の川堰落ち水の白く青く/相沢野風村
★稲光見てより歩調速くなり/太田淳子
★虫の闇阪神巨人戦終わり/碇英一
★石段のどんぐり風に転がされ/池田多津子
★コロコロと笑い声来る秋の校庭/吉田晃
★音深く花野に雨の降りつのる/小原亜子
★交差点の行き交う顔に秋日濃し/河ひろこ
★坊ちゃん列車秋祭りのど真ん中/池田和枝


▼選者詠/高橋正子
酔芙蓉日にうららかに咲き残る
秋山の間近の木々の盛り上がる
石垣とコスモス風があり馴染む


■第46回入賞発表(10月3日)/高橋正子選評


【金賞】
★コスモスに風を残して貨車過ぎる/藤田洋子
線路の傍のコスモスは、列車が通り過ぎると、しばらく風を含んでさわさわと揺れる。「風を残して」である。力強く過ぎる貨車とコスモスのしなやかな華やぎが秋たけなわの風景となっている。

【銀賞】
★夕日ぽっかり窓に沈めて夜学の子/柳原美知子(信之添削)

【銅賞】
★たけなわの栗盛る店の吹きとおし/おおにしひろし
今出盛りの栗が、つやつやと盛られて店にある。小さな商店であろう。店は風が吹き通ってさやかである。「たけなわの栗」への新しい感動がある。


【特選5句】

★発電の風車ゆっくりすすき原/澤井 渥
発電の風車の大きな羽が、すすき原にゆっくり回っている。エネルギーを問われている現代の一風景。すすき原には、目に見えないものが満ちているような感じがする。

★秋の陽を吸いてほっこり木のベンチ/太田淳子
★木犀の香りカーテン揺らし来る/池田多津子
<ケニア山レナナピークへ>
★熱帯の星降る夜の涼しさよ/多田有花
★朝の日に蜻蛉きらりと嵐明け/岩崎楽典


【入選19句】

★すこやかに物を忘れて木の実落つ/堀佐夜子
★台風の過ぎて生まれし清さかな/加納淑子
★ほしひかり握りて点滴受けてみる/小峠静水
★赤岳の肌を剥きだす天高し/霧野萬地郎
★澄みきりし秋空に舞う蝶二つ/能作靖雄
★秋茄子の紺ぬかどこに色移す/馬場江都
★野菊摘み花束ほどを渡しけり/碇英一
★高積みの稲架を揺らし列車風/高橋秀之
★秋出水木々の間を流れおり/相沢野風村
★曼珠沙華蕊の雫に雲流る/藤田荘二
★秋の風幟の藍を濃く染めて/池田和枝
ボロブドール遺跡
★夏空へ積まれし石の果てしなく/古田けいじ
★台風過ぎこの青空の安らかさ /山野きみ子
★散り弾け銀木犀の花の庭/宮地ゆうこ
★背負い籠秋の夕日を帰りくる/大給圭泉
★月光に深き影なすさざれ石/河ひろこ
★鰡飛びてたそがる橋をたもとほる/平野あや子
★ホイッスルに合わせて行進天高し/祝恵子

▼選者詠 /高橋正子
泡立草塒へ鳥を帰しけり
踏み匂わす枯れし松葉のつややかに
葛の花のはじめに暮れぬ街の果