■さら句会/入賞発表D■

第30回(9月11日)〜第35回(9月17日)

■第35回入賞発表(9月17日)/高橋正子選評

【金賞】
★脳天に電工の声秋高し/金子孝道
秋空の高さが、人声によって心に爽やかに沁みてくる。電柱で工事中か、電気工の声が、脳天を食らわしたように振って来た。その声に驚かされるが、見れば空は澄んで高い。

【銀賞】
★ジャングルジム子ら秋空に手を伸ばす/池田多津子

【銅賞】
★朝露の牧に放たる駒二頭/小原亜子


【特選5句】

★秋風がどっと吹き抜け橋脚あらわ/おおにしひろし
原句は、「橋脚」を「はし」と読ませているが、破調となるが「きょうきゃく」と読むべき。秋風がどっと吹く抜けると、大きく太い橋脚の形がくっきりと印象に残る。夏ならば、暑苦しく感じるのだが、秋が来ればこそ、物はさやかになる。

★久びさに街で会う人黄菊抱き/大給圭泉
久しぶりに街で会った人が、明るい黄菊を抱いている。秋の花の菊を見るにつけ、季節が移り、時が経った思いがおのずとして、嬉しさも一入である。

★空高し海より戻る練習機/霧野萬地郎
★爽涼や息の揃いしカヌーゆく/池田和枝
★秋汐にみどりの水藻あらわるる/都 久俊

【入選22句】

★一湾をつつんで霧のゆたかなる/宮地ゆうこ
★竹の春トロッコ電車の汽笛鳴る/祝 恵子
★藁塚の藁に実りの張り強き/吉田 晃
★どの田にも稲架一つ立ち夕暮れる/霧野萬地郎
★雨上がる色増しており式部の実/古田けいじ
★ワイングラスに秋の入日が溶けている/日野正人
★そぼ降れば秋灯滲む田の彼方/岩崎楽典
★雨の日の夕餉親しきとろろ汁/山野きみ子
★音もなく降る雨匂う秋の土/能作靖雄
★飛行雲音に残され秋の空/冬山蕗風
★せきれいの色しまりたる棚田かな/碇 英一
★山霧や溶けて流るる鳥一羽/相沢野風村
★ブティックは深き秋なり浸りたる/岩本康子
★秋灯る窓より聞こゆニュースの声/馬場江都
★秋の蚊や窓の開閉ぎしぎしと/戸原 琴
★今朝の雨一身に受けており鶏頭花/河ひろこ
★街騒の谷川に似し秋黴雨/加納淑子
★秋雨に潮の縞目の走りゆく/平野あや子
★丹波栗粒の重さを剥きにけり/磯部勇吉
★九ん月の祝ぐ日多しやこの家に/堀佐夜子
★相見るはいつの日ならむ秋の雲/右田俊郎
★近道の清水寺へ酔芙蓉/澤井 渥


▼選者詠/高橋正子
 拉致された人の死
無花果のつめたさもてる人の死よ
テーブルに朝のくらがり秋晴るる
止めおける紙はたはたと秋進む


■第34回入賞発表(9月16日)/高橋正子選評


【金賞】
★間引き菜の一つの笊に収まらず/澤井 渥
菜畑が、恵みの雨に湿って、間引き菜が、笊に入りきらないほど採れた。思わぬ間引き菜の量に、今日のささやかな喜びがあって、すがすがしい。夕餉の膳が、また楽しみ。

【銀賞】
★ひつじ穂のふぞろい均し風渡る/やぎたかこ
「風渡る」に、作者の気持ちが託されて、刈跡のひろびととした風景に心を遊ばせて、しなやかである。

【銅賞】
★式部の実まじりて花屋の店頭に/岩本康子
秋の花屋は、明るい草花だけではなく、実をつけた木ものや、渋い色合いの草花が並ぶ。その中の式部の小さな紫の実は、名前もゆかしく秋の深まりを感じさせてくれるものである。


【特選5句】

★蔦の家色づき初むる二階窓/山野きみ子
蔦が覆う二階の窓。色づき初めた蔦に、二階の窓はロマンティックになる。それは、作者の明るい方へ向けられた心境であろう。

★馬追の髭じゃまらしく跳び曲がる/相沢野風村
存在感のある馬追。飛び跳ねたのはよいが、その立派な髭のせいで、思わぬ方向に曲がった。馬追を愉しく力強く表現した。

★風に押され押されるままに花野ゆく/冬山蕗風
★遊び飽き木の実木の葉に置きしまま/都 久俊
★鶺鴒の来て艶となる石の庭/宮地ゆうこ


【入選25句】

★花オクラ月の色して夕闇に/やぎたかこ
★園児らのリユックにはみ出すさつま芋/右田俊郎
★敬老日二人の卓に馳走すこし/堀佐夜子
★空刻む鵙の高音へ野良の風/宮地ゆうこ
★割れし毬そのまま売られ栗の照り/守屋光雅
★葛の花立ちのぼりたる崖の上/平野あや子
★にびいろの潮を重ねる湾の秋/霧野萬地郎
★秋雨や昼の灯ともす路地の家/加納淑子
★秋澄みて沖行く船のくっきりと/池田和枝
★秋手入れ仰ぎし空の澄み渡る/能作靖雄
★目の大き学習農園の案山子/碇 英一
★山峡に目玉ゆらりと鳥威し/岩崎楽典
★単線の向こう側にも萩の花/戸原 琴
★遠くからその色見せて烏瓜/古田けいじ
★ランナーの帽子で休む赤とんぼ/津村昭彦
★秋雨の来て乾いた大地の息吹く音/池田多津子
★コスモスの園一服のダージリン/安丸てつじ
★公園に巣箱ひっそり秋風入れ/柳原美知子
★小ぶりなる昼の朝顔青深む/磯部勇吉
★一歩行くたびのキチキチ跳びたちて/おおにしひろし
★電話受く一と本芒しなやかに/野田ゆたか
★淡き青薄く流れる秋の川/吉田 晃
★運動会入場門から夢開く/日野正人
★秋の風窓辺に寝る子の頬にそよぐ/高橋秀之
★晩酌もお菜も終わりとろろ汁/脇美代子


▼選者詠/高橋正子
池隅に水音生んで秋の雨
秋雨のあとを街灯あおく点き
大方は眠れる窓に虫集く


■第33回入賞発表(9月13〜15日)/高橋正子選評


【金賞】
★人の手に触るることより新豆腐/野田ゆたか
この句は、「より」の解釈に重点がある。冷たい水から掬う、あるいは、掌にのせることによって、今年の大豆で作られた豆腐は、できたばかりのほのかな匂い、柔らかな白い色、水に触れていた切り口などが、生き生きとしてくる。新豆腐を感覚的に捉えた作者の新境地といえる句。(高橋正子)

【銀賞】
★秋冷や心に芯のようなもの/岩本康子
秋冷を感じ、思いが掘り下げられれば、心の奥に「芯」のような、確固とした自分の核に気づく。自己を掘り下げたときに行き当たるものが、「核」であり、「芯」であるということなのだろう。(高橋正子)

【銅賞】
★無人駅秋風連れて来る電車/おおにしひろし
無人駅のホームは、風が気ままに吹き抜ける。そこに秋風を連れて電車が滑り込んできた。電車は、まるで人間のように、秋風を颯爽と連れてきたのである。(高橋正子)


【特選5句】

★堤防の空の中より秋日傘/堀佐夜子
堤防の向こうから誰か上ってくるのだろう。秋の強い日差しを受けた日傘が見え、それから堤防を上って来る人が現れて、小津映画のような物語を愉しく想像させてくれる。(高橋正子)

★稲穂稔る根元にいまだ水残り/祝 恵子(正子添削)
稲穂が稔り、田の水はすっかり落とされ、乾いているのが大方であるが、田によっては、小さな水溜りが稲の根元に澄んで残っている。稔り田の姿を丁寧に見届けたやさしさに、心打たれる。(高橋正子)

★秋高しどこかで藁を焼く匂い/脇 美代子
★手に熱く湿るどんぐりくれたる児/戸原 琴
★どんぐりが斜めに弾む実を落す/霧野萬地郎


【入選33句】

★高層の秋灯深く川に落つ/山野きみ子
★朝霧やテニスコートのこだまして/大給圭泉
★天高し靴紐ぎゅっと締めなおす/池田和枝
★コスモスの咲く学校にチャイム鳴る/河ひろこ
★石段を登れば秋天迫り来る/日野正人
★つつぬけの空を頭上に運動会/藤田洋子
★逆上がりくるりと回る秋の空/池田多津子
★爽かに禅寺の白塀つづきおり/都 久俊
★牛蒡削ぐ土の香ふかく秋厨/宮地ゆうこ
★ぷちぷちと弾きもろこし食みており/平野あや子
★ゴールへと走り抜けたる子らさやか/藤田洋子
★秋の夜の振り子時計の正確に/吉田 晃
★この命全うすべく百日草 /池田和枝
★鰯雲青年の高き希望かな/鬼頭雅子
★ルビー色誇りて八百屋の石榴の実/加納淑子
★過ぎる時ちちろの垣根でありしかな/碇 英一
★採りもせず糸瓜垂れてる俺の家/守屋光雅
★秋草の名を知らねども活け替える/能作靖雄
★潮満ちる日暮れの早き灯を映し/古田けいじ(正子添削)
★朝顔や暁の空気の濃かりけり/磯部勇吉
★草むらを子等に追われし飛蝗かな/岩崎楽典
★ひたひたと栗の甘煮を煮つめいる/馬場江都
★往来に一筋澄みし虫の声/柳原美知子
★日焼けした息子と出会う朝の駅/冬山蕗風
★露草の刈られし草の中に咲き/澤井 渥
★喪服着た人に出会いて鰯雲/林 緑丘
★掃き終えしゴミ場にこぼるる蓼の花/やぎたかこ
★虫の音の冷たき雨をなほも鳴く/右田俊郎
★露草や母の医薬巾着に/大給圭泉
★大花火放物線を撮りとめよ/相沢野風村
★誕生にメ−ルが届き秋の宵/津村昭彦
★昨日より高きを飛べるとんぼかな/碇 英一
★九月テロ逃れし中に我が子居し/安丸てつじ

▼選者詠高橋正子
バルコンより見えて葛の花濃かり
子が往きて夜葛の花の匂いくる
心すずしあらたな虫の鳴き始め


■第32回入賞発表(9月12日)/高橋正子選評

【金賞】
★コスモスのそこから上を空とする/小原亜子
コスモスの花と、その上の空とに分割されている景色。コスモスは空に花を浮かべるようにそよいでいるだろうし、空はその花に応えるように青く広がっている。伸びやかで、きっぱりとした捉え方がよい。(高橋正子)

【銀賞】
★栴檀は空の青きに実を結ぶ/吉田 晃
うす黄緑か金色か、そんな丸い栴檀の実が空の青に映えて美しい。「実を結ぶ」の静かな言い収めが、栴檀の実を静かなものにした。(高橋正子)

【銅賞】
★顔洗う今朝秋水と思いけり/脇美代子
「しゅうすい」という音が、よく効いている。今朝の洗面の水に、確かに秋の水を感じ取った。冷たくてきれいな水である。こんな日は、すっきりとした気持ちになれてうれしい。(高橋正子)


【特選5句】

★真直ぐと見て切りし竹曲がりおり/澤井 渥
真っ直ぐのはずの竹が、切り倒して手元に置けば、風雨に耐えてか曲がっている。こういうことがある。人の心の曖昧なところをついていて面白い。(高橋正子)

★ねこじゃらし触れるわが手へ種降らす/古田けいじ
ねこじゃらし、または、えのころぐさと呼ばれる草も、やはり稲のように実る。穂が熟れて、ほろほろと種をこぼす時期となった草が、ここにもある驚き。(高橋正子)

★チャイム鳴りて花野の校舎静まりぬ/おおにしひろし
★一ところ風の渦巻く稲筵/磯部勇吉
★リンドウを活けた菓子舗のウインドウ/守屋光雅


【入選15句】

★冬瓜や賢治の詩うでくのぼう/戸原琴
★手を延べて空より葡萄を切り離す/小原亜子
★青空のかけら降り来る秋手入れ/宮地ゆうこ
★禅寺へ青北風抜ける切通し/霧野萬地郎
★萩の花さらさらと散り風となり/大給圭泉
★鰯雲天指すものの幾筋も/山野きみ子
★葡萄剥く青き雫のままを吸う/池田和枝
★秋日向歩けば町は昔の匂い/日野正人
★冬瓜の形のままを風呂敷に/戸原 琴
★ふみを書く筆ペンの先さわやかに/やぎたかこ
★初公開あります夢二の秋個展/祝恵子
★秋風に旗々なびく梨畑/能作靖雄
★泡盛と土産話の夜長かな/都久俊
★窓の外霧の向こうに出船かな/高橋秀之
★忘れまじあの日のことを鰯雲/冬山蕗風

▼選者詠/高橋正子
白皿に葡萄は露をこぼさざる
菊の花深紅に足りて竹篭に
鶏頭に水遣り水の葉をこぼる


■第31回入賞発表(9月11日)/高橋正子選評


【金賞】
★冬瓜の清しき白をサクと切る/祝 恵子
冬瓜の大きく単純な形と色。中もさっぱりとした白。「サクと」に作者の感じたすべてがあって、「サクと」切られるのに相応しい冬瓜をうまく捉え、単純、かつ的確である。(高橋正子)

【銀賞】
★秋暑し鉄骨組まれゆく匂い/藤田洋子
「秋暑し」にある青空と日差しの強さ、その中で、繊細にかつ大胆に感じ取る鉄の匂い。物事をはっきりと掴む心境がよい。(高橋正子)

【銅賞】
★蜻蛉の風の階層行き来する/日野正人
蜻蛉が飛べば、そこに風の層が見て取れる。蜻蛉が水平に、それぞれの高さに飛んでいる爽やかな風景がよい。(高橋正子)

【特選5句】

★虫の音を二階の高さに連れ上る/磯部勇吉
「連れ上る」は、実感を吟味していての表現だろうが、外に集く虫の音の感じがよく出ている。(高橋正子)

★鰯雲馬の背中はなだらかに/安増惠子
遠く高い鰯雲に、馬の背中のみを描いて、はるかな景色と馬の姿の美しさをうまく表現している。馬への親しさが、いいアプローチを生んだ。(高橋正子)

★燃えたまま秋の夕日の沈み行く/吉田 晃
★秋簾平行線の影遠く/相沢野風村
★朝霧に浮き出る朝日丸く白/池田多津子


【入選19句】

★古家のガラス明るい酔芙蓉/霧野萬地郎
★秋入日ふっくらと野にとどまりぬ/宮地ゆうこ
★鰯雲はるかふるさとまでおおう/右田俊郎
★草々に秋の声とも風の音/加納淑子
★秋夜更け幾度目かの愛読書/堀幹夫
★日焼けせし牧師の破顔優しかり/岩本康子
★長き夜のパソコン文庫立ち上げて/堀佐夜子
★太古木を透かして動かず秋の湖/河ひろこ
★土手歩む裾しっとりと草の露/岩崎楽典
★澄む空の富士に向かいて赤とんぼ/大給圭泉
★月明かりハイヒールの音鳴りゆけり/冬山蕗風
★ひつじ田の露光らせる朝日かな/碇 英一
★庭木刈る吾も庭師と胸を張る/能作靖雄
★秋日和湖なき島を一周す/平野あや子
★秋暁の空行く白鷺陣整え/おおにしひろし
★遠くにもぎんなん見える街並木/古田けいじ
★虫の原ヘッドライトの撫でゆけり/澤井 渥
★秋果盛る幸せ続くこと祈り/祝 恵子
★新米の水加減聞き買いにけり/都 久俊


▼選者詠/高橋正子
鎮魂の朝といえども鵙啼けり
鵙の声朝の窓辺に寄ればすぐ
虫の音の夜半ともなりてきらめけり