■さら句会/入賞発表(28)■

第154回(3月10日)〜第162回(3月20日) 

第162回(3月20日)/高橋正子選評

【金賞】
★一村を抜けて春田の畦に出る/祝恵子
人家のある一村を抜けると、若草の萌える田の畦に出た。故郷の田
の畦であろうか。畦に立てば、ふっと昔に立ち返るような思いがす
る。思いが広く湧いてくる。

【銀賞】
★空しらしらと春満月の登り来る/古田けいじ
春の満月が登るところを、情感ゆたかに詠んだ。空をしらしらと明
るくさせて、雫を零さんばかりの春の月が美しい。

【銅賞/2句】
★囀のしんがりの声杜の奥へ/小峠静水
飛び後れた鳥であろう、囀って杜の奥へ飛んでいった。様々な鳥が
いる杜が深い。

★春風に大きくカーブする白球/日野正人
春風に、力のとおりに大きなカーブを描いて飛ぶ白球に、明るい日
向の世界がある。イメージがはっきりしていて、若い力がある。

【特選5句】

★野焼あと蒼天もどり香の残り/大給圭泉
★雉鳴けり一直線に屋敷林/能作靖雄
★ひたひたと干潟覆いし春の潮/平野あや子
★春大潮刻々満ち来月上る/河勝比呂詩
★若草に通学鞄と自転車と/堀佐夜子 

【入選15句】

★春満月ほのかに匂う中にあり/相沢野風村
★朝の陽に透けて春菜の籠あふる/宮地ゆうこ
★口笛を鳥に聞かせば山笑う/今井伊佐夫
★春満月屋根なき駅に光りを落とす/野仁志水音 
★春の香に満ちて満山の明るさに/おおにしひろし 
★春眠のまま乗り越して富士近し/霧野萬地郎
★歌声の陽を弾きたる卒業式/岩本康子
★法事終え明るき庭に陽炎へる/藤田荘二 
★風花や紅梅すこし熱兆す/磯部勇吉 
★春スキー終え温かきクレープを/多田有花
★桜芽木校庭飛び出すユニフォーム/脇美代子 
★茨の芽猟犬二匹駆け抜ける/澤井渥 
★スイートピー泡のぽつりと玻璃の花器/山野きみ子 
★塾帰り連れもちながら朧月/堀佐夜子
★晴れの日や桜の蕾ふくらみぬ/右田俊郎  

第161回(3月19日)/高橋正子選評

【金賞】
★青き踏むフランスパンを抱きながら/小峠静水
フランスパンを抱いて青きを踏むは、洒落ていて、軽い。長い脚の
人を想像するが、人生の深い思いが、軽く表現されている。

【銀賞】
★春潮の満ちて始まる進水式/平野あや子
膨らんで来るように満ちてくる潮に、進水式が始まって、いよいよ
春潮に滑り出す新造船が鮮やか。お祝いと航海の安全を祈っての、
華やかな進水式が目に浮かぶようである。

【銅賞/2句】
★青空の高きを染めて彼岸桜/岩本康子
高く晴れ上がった青空を、彼岸桜の清楚な色が染めて印象的である
。天空の丸さ高さを感じさせてくれる。

★三椏の花芽まんまる和紙の村/今井伊佐夫
葉に先駆けて咲く三椏の花もかわいらしいが、花芽もそれ以上にま
んまるで、かわいらしい。鄙びた和紙漉きの村の雰囲気がよく出て
いる。

【特選5句】

★今届く蕨に青き山の匂い/池田多津子
★スノーボードざっくり削る春の雪/多田有花
★堰低く流れあふれて菜の花へ/柳原美知子
★春筍土もろともに掘り起こす/宮地ゆうこ
★春塵や日輪揺らぎはじめたり/小原亜子 

【入選20句】

★清流の水車に生まる春の音/大給圭泉
★旅鞄急ぎ詰めおり菜種梅雨/祝恵子
★立山の清き流れに春堤/能作靖雄
★鳥集う地祝いおえし春の土/霧野萬地郎
★せめてもの食卓に挿す黄水仙/堀佐夜子 
★バス降りる高みにさえずり聞くあした/古田けいじ
★草餅のきな粉楕円に香を残し/相沢野風村
★バスの中桜のことなど話おり/祝恵子
★田螺這う川面かすかにせせらいで/おおにしひろし
★すぐそこに航路灯見ゆ大干潟/澤井渥
★春の海波の穂ひくく貨物船/片平奈美
★茹で上げて春筍光る灯の真下/宮地ゆうこ
★報道の戦ばかりや春彼岸/堀佐夜子
★三時来て春筍の手塩皿/河勝比呂詩
★春風や花屋の店先真っ黄色/右田俊郎
★遠足の子らを抱えて山笑う/池田和枝
★城山の天守の道へ彼岸桜/吉田晃
★開館を待つ間に梅を見ておりぬ/河ひろこ
★自転車かご菜花あふれて通り過ぐ/池田多津子 
★太き枝に腰掛けるよに春の月/日野正人

▼選者詠/高橋正子
川土手の菜花の黄いろに影もなし
子に刻む独活のサラダの芳しき
春宵の銀のくさりを掌に光らす  

第160回入賞発表(3月18日)/高橋正子選評 

【金賞】
★蕗の薹揚げて懐紙へ荒塩と/霧野萬地郎
蕗の薹のてんぷらを荒塩で食べるところであろう。軽く揚がった蕗
の薹と、荒塩の輝きが詩的にマッチしている。春という季節の軽さ
がよい。

【銀賞】
★華やぎに満ちる気配よ春の山/右田俊郎
さまざまな芽吹きの色合い、馬酔木や藪椿の花があるのかもしれな
い。ヤシャブが若緑の花を垂らし、鳥も鳴いているのだろう。そう
いったもの、つまり華やぎが益々増して来る気配がある春の山を称
えた。

【銅賞/2句】
★遅き日やネジ巻く音の玩具店/平野あや子
玩具店の数多くある玩具のなかで、ネジを巻く玩具がひとつ、永い
日の気だるい気分を引き締めるかのように巻かれている。遅き日の
のどかさでもある。

★青梅路のあまた梅あり香り立つ/大給圭泉
「青梅路」の名前の由来のとおり、たくさんの梅の木があり、花が
よく匂っている。本当にそうだと納得させられる梅の里にいる喜び
がある。

【特選5句】

★水遣れば畝に種芋ある起伏/宮地ゆうこ
★真砂土の色新しく入彼岸/河勝比呂詩
★しゃちほこの光るお城へ青き踏む/古田けいじ
★菜の花に埋まりて長く土手くねる/吉田晃
★広々と乾く干潟に鴨の寄る/藤田洋子 

【入選19句】

★野火ときに逆らい猛り人走る/大給圭泉 
★林間をすり抜ける春スキーヤー/多田有花
★日差し濃き春昼墨の香もほのか/藤田洋子
★春の風関わり易き肩にきて/小峠静水
★桃の花咲かせ洗濯ものも干す/おおにしひろし
★煌いて春の海へと引く運河/古田けいじ
<北海道にて>
★陽の影に畦残雪の段々に/相沢野風村
★石庭の石それぞれに春の影/馬場江都
★あせび輝り白きを池に揺らしおり/馬場江都
★マヌカンの春装光り外は雨/山野きみ子
★進水のくす玉割られ風光る/平野あや子
★水音を耳に集めて春帽子/脇美代子
★ママゴトのお膳に上る春の泥/都久俊
★雨粒の光りて紅梅咲き初むる/磯部勇吉
★霞みたる洋へ落ち込む飛行雲/澤井渥
★ちぎり絵のような雲出て春満月/堀佐夜子
★木槌打つ棟梁の声春の野に/能作靖雄 
★母といる湯船の窓より春満月/岩本康子 
★お遍路や軽く携帯電話押す/日野正人

▼選者詠/高橋正子
きみどりに桜蕾の膨らみくる
木々深く馬酔木の花の白すがし
山肌に春の夕日のあかあかと  

第159回入賞発表(3月17日)/高橋正子選評

【金賞】
★木霊して物の芽山を膨らます/脇美代子
木霊が返ってくる山の静かさに、木々が芽吹き、山が膨らんだよう
に思える。芽吹くものの静謐な生命が明るく詠まれている。

【銀賞】
★菜の花に包まれ一日明るかり/柳原美知子
菜の花をふんだんに見た一日であろう。菜の花の明るさが心に移り
、一日菜の花の明るさをもって過ごすことになった。温和な明るさ
がよい。

【銅賞/2句】
★塗り終えし船完成へ春の風/平野あや子
造船所の光景だが、塗装を終えていよいよ船が完成される清々しさ
がある。春風が運んで来る塗料の匂いも真新しく、進水が待ち遠し
い。

★静けさをそこに集めて白れん咲く/宮地ゆうこ
白れんの端正な美しさが、「静けさを集めて」となるのだろう。空
や雲、光や山の静かさが白れんの花に集まっている。

【特選5句】

★桜芽の高さに瀬戸と岬靄う/おおにしひろし
★月丸し同じ色して白木蓮/古田けいじ
★潮の音殻に篭りて浅蜊汁/山野きみ子
★水仙の香ぐわし抱え墓参道/大給圭泉
★囀りに深く隠れて煉瓦館/池田和枝 

【入選13句】

★街角の足湯に並ぶ春帽子/今井伊佐夫
★春ショール風に遊ばせバスを待つ/堀佐夜子
★菜の花の匂いを風に無人駅/岩本康子
★春来たり宙に黄色のアドバルーン/相沢野風村
★濃き潮の若布すだれの雫かな/霧野萬地郎 
★田を返し光りと風で土を作る/安田明子
★放されてゆるりと沈む春の鮒/磯部勇吉
★春寒や湯気に招かれ伯耆蕎麦/河勝比呂詩
★上り駅下りの駅も梅香る/小峠静水
★伸ばす手を架け橋に受く卒業証書/日野正人
★牡丹の芽ほぐれ夜来の雨あがる/澤井渥
★幼子の春泥にまみれ雨上がる/高橋秀之
★三月の校庭無心に遊ぶ子ら/池田多津子

▼選者詠/高橋正子
落椿眩しむほどの赤きいろ
白鳥の羽を掲げる春の風
沖海を遥かへやりて干潟あり  

第158回入賞発表(3月14〜16日)/高橋正子選評 @

【金賞】
★母と娘と空をひとつに蓬摘む/大給圭泉
少し離れて蓬を摘む母と娘をつなぐ広い空。母と娘の絆が、さわや
か。春の野が芳しく詠まれている。

【銀賞】
★闇々を香りでつなぐ沈丁花/戸原琴
どこの家からも沈丁花が香りが流れて、一つの家の闇と、次の家の
闇を繋いでいる。香りに満ちた道筋に通りすがるものの気持ちが安
らぐ。

【銅賞/3句】
 垣生中学校
★校庭の句碑どっしりと下萌える/藤田洋子
垣生中学校には、子規と並んで漱石と親しかった俳人村上霽月と、
石田波郷の句碑がある。句碑は校門を入るとすぐにあって、小ぶり
だが風雅な石で風格を感じる。下萌えの盛んな様子と、句碑の落ち
着きが対比されている。

★春キャベツ軽く重ねてまな板に/脇美代子
生活に詩を取り入れ、「軽く」そして楽しいのがいい。それを続け
れば、心境は、次第に深くなってくる。(高橋信之)

★どっと出る朝の駅頭青き踏む/安丸てつじ
「どっと」に、駅頭から出て職場や学校に向かう人たちの元気があ
って、「青き踏む」にも、元気以上の希望が読み取れる。

【特選5句】

★差し出した両手にあふるつくしんぼ/池田多津子
「つくしんぼ」を詠んで、口語表現が生きた。「両手にあふる」に
偽りがない。(高橋信之)

★大根の花真白きを壷にさす/おおにしひろし
★沈丁の夜はひと日を満足に/加納淑子
★うすうすと魚割く春の水流し/柳原美知子
★つくしんぼひとつ見つけてそこここに/堀佐夜子  

第158回入賞発表(3月14〜16日)/高橋正子選評 A

【入選36句】
★昂然と寒のもどりて富士間近/藤田荘二
★潮の香の斜面菜花の咲きそろい/池田多津子
★訃報電話受けてより春灯消さずおく/堀佐夜子
★移り気の背にありありと春半ば/河勝比呂詩
★春寒や煙大きく傾ける/碇英一
★永き日の窓開け夕餉の菜を刻む/宮地ゆうこ
★水色の空も海をも春うらら/都久俊
★囀りの姿見えずに雲流る/相沢野風村 
★春ひざしビルの丸みにまるく映え/鉄朗
★春風は斜めに描くピンクとす/大石和堂 
★長き畝大根の花二つ三つ/能作靖雄
★春かすみ山並み遠くなりにけり/澤井渥
★母が挿す供花の明るさ春らしく/野田ゆたか
★鳥曇伝言板は消されをり/小峠静水
★牡蠣干上がりてこれからは春潮満ち来/おおにしひろし
★逆上がりくるくる出来た春夕焼け/脇美代子
★客送る達者誓いて春灯下/河勝比呂詩
★蹲りなずな見おれば背は夕陽/古田けいじ 
★鷺脚をそろえてふわり春の風/磯部勇吉
★師の孫と絵本をめくる春の雨/野仁志水音
★春光をまっすぐ貫き坂登る/野仁志水音
★春霰の弾み転がる芝の上/馬場江都
★春の鳥河原にあちらこちらにも/祝恵子
★売られてる香川の菜花雪の市/守屋光雅
★魚河岸に春灯淡し真砂女逝く/山野きみ子
★歯に弾けアスパラガスの青き音/池田和枝
★雑巾を丁寧に掛け卒業生/日野正人
★陽だまりの子雀追いて子ら走る/高橋秀之
<富士の裾野にて>
★春雪を撥ねる竹林日が昇り/霧野萬地郎
★梅咲いた噂しており郵便夫/河ひろこ
★高速艇春の海峡一直線/岩本康子
★まず楽しグラスに放す蕗の臺/平野あや子
★潮の香の中にゆらゆら春の月/吉田晃
★陽炎に手を伸ばし見るちっちゃな子/右田俊郎
★春帽の萌黄のリボン絹の風/片平奈美
★新芽出ず柳の糸の揺れ静か/岩本康子 

▼選者詠/高橋正子 
菜の花の岸の際まで寄せる水/正子
干潟より海となりたる明るき水
影見せず河原に広く鳴く雲雀  

第157回入賞発表(3月13日)/高橋正子選評

【金賞】
★白木蓮満開までの丸さ持ち/古田けいじ
白木蓮の蕾が今にも開きそうな丸さである。満開になった時の白鳥
のような美しさを楽しく想像させてくれる。

【銀賞】
★鳶飛ぶ春の空気を胸にだき/斎藤のぶこ
春になって、気持ちよさそうに空を舞う鳶の姿を目にし、晴ればれ
とした気持ちになる。「空気を胸に抱き」に、春の空気の心地よさ
を感じる。

【銅賞/2句】
★真綿雲芽吹きを高く引き上げる/山野きみ子
空の上層にすじを引く繊細な真綿雲。真綿雲に届かんとするように
芽木も背丈を伸ばしている。地上の芽吹きを空へ引き上げてくれる
ような雲の高さが魅力。

★春風に押し上げられてボール飛ぶ/祝恵子
投げられたボールが、さらに春風を得て押し上げられて、心地よい
曲線を描いて飛んでいく。その様子が、のびのびして明るい。

【特選5句】

★芽木の赤明るさ増して山膨らむ/脇美代子
★鳥帰る陽に向いつつ陽に消える/相沢野風村
★地に生ゆるものみな春陽に動きだす/おおにしひろし
★図書館へ坂なだらかに花馬酔木/霧野萬地郎
★淀川の流れ増し来て水温む/堀佐夜子 

【入選17句】

★囀や水遣る朝のひとときを/宮地ゆうこ
★春の田はまだらに鋤かれ鳥群れる/能作靖雄
★歩き初む今日の一歩や犬ふぐり/戸原琴
★闊歩する一駅分や花なずな/池田和枝
★水音のかろきかがやき犬ふぐり/大給圭泉 
★もの言はぬ猫を抱き止め春の雷/片平奈美
★思い切り引き寄せて撮る梅の花/澤井渥
★山茱萸の花を透かせて空が明るい/おおにしひろし 
★滑り台滑らせ光る春の雪/磯部勇吉
★薔薇の芽に落日ひかり澄にし風/加納淑子 
★芽輝く明日を約すか白木蓮/河勝比呂詩
★おつかいは自転車でゆく春の風/右田俊郎
(海の貴婦人:三本マストの帆船)
★貴婦人の総展帆に風光る/能作靖雄
★永き日に魔法の効かぬ竹箒/小峠静水
★白れんの明日開かんと空高く/岩本康子 
★大き口開けてめばるの煮上がりし /藤田洋子
★脇道を次々曲がり遍路行く/日野正人 

▼選者詠/高橋正子
春寒に笹鳴く声を光とも
鳩サブレふくらみ加減の春らしき
春セーターに日暮れの影の染みいたり  

第156回入賞発表(3月12日)/高橋正子選評

【金賞】
★土筆摘む土手を斜めに下りてゆく/澤井渥
土筆を摘みに、たらたらと土手と下りて行くのに、心楽しさがあっ
て、春の佳句となっている。草萌える土手への親しさがいい。

【銀賞】
★白い干潟の高さに海が満ちてくる/おおにしひろし
干潟は春の季語。白く遠くまで広がる干潟に、薄く流れ込むように
、海水が満ちて、さわさわとした海の音が聞こえる。

【銅賞/2句】
★白椿活けし旧家の時計鳴る/加納淑子
白椿の活けられた旧家は、静かな落着きがある。そこに、時を確実
に打って時計が鳴る。旧家にある時の深さを、白椿のしっとりとし
た美しさに重ねて思う。

★桜膨らむ普通列車の停まる駅/古田けいじ
駅ごとに停まる列車が見せてくれる、この駅の桜の蕾の膨らみ。普
通列車で行く今日の楽しさは、この駅の今を膨らむ桜との一期一会
にある。

【特選5句】

ぺこぺことブリキのおもちゃ花菜雨/小原亜子
新しき巣箱に子らの名前あり/霧野萬地郎
風船に親子の絆の息深く/小峠静水
春陽さす村切り取りてカンバスに/河勝比呂詩
三月のきらめく湖へ遊覧船/脇美代子 

【入選19句】

バスを降り夜風に梅の匂いけり/大給圭泉
風光る二両連結橋渡る/古田けいじ
春の種蒔かれるらしい細きすじ/祝恵子
<合格発表にて>
黒墨の受験番号に握る指/相沢野風村
片言やたんぽぽ摘みし児と歩く/平野あや子
落つるとも浮くともつかず雪の終/磯部勇吉
春一番連山蒼く遠ざかる/能作靖雄
病む犬と若草の香を歩みけり/宮地ゆうこ 
春椎茸ひやりと暗きを籠に採る/宮地ゆうこ
中庭の四角に春の雲流れ/加納淑子
貴婦人の羽の帽子や春窓辺/右田俊郎
菜の花や棚田の肩に遍路道/石井信雄 
手のひらにマウスひんやり春寒し/堀佐夜子
デッサンに見入る春服軽き人/河勝比呂詩
雉鳴いて姿は見えず冴え返る/守屋光雅
春の夜に闇を重ねて合掌す/片平奈美
半月が朧にかかる軒の下/多田有花
異次元に空気も運ぶ春画廊/福田由平 
給食に郷土料理の菜飯出る/日野正人

▼選者詠/高橋正子
ふっくらと土佐の浅蜊の育ちける
桃の花枝におおかたは蕾
春の蕗茹でて一夜を水に置く  

第155回入賞発表(3月11日)/高橋正子選評

【金賞】
★最上川雪を包みて海に帰る/相沢野風村
さつさつと降りこむ雪を川水が包み込むように解かして、海へ流れ
て行く。水量の勢いに川は海へ帰るというのに相応しい様子である
。芭蕉の最上川の名句の水量も思い合わされよう。

【銀賞】
★水音の消え行く先まで花菜咲く/吉田晃
花菜の中を川水が潜っているのであろう。作者の位置からは、水音
は消えてゆくが花菜はその先までを咲き覆っている。水と菜の花の
輝きが見えるような句。

【銅賞/2句】
★凛と咲く梅を愛でつつ門を入る/安丸てつじ
訪ねてきた門を入ると、梅の花の凛とした気品に心を奪われてしま
った。庭を守る家人の心馳せも偲ばれ、清々しい思いになれる。

★春キャベツ刻みし音にハミングす/能作靖雄
春キャベツの明るくやわらかな黄緑色と、それをさくさく刻む軽快
な音に、ハミングが出る。なにか良いこともあったのだろう。うき
うきした気持ちが楽しい。 

【特選5句】

★冴え返る青空を背に今朝の富士/霧野萬地郎
★鳥雲に長き蛇行の高速路/山野きみ子
★蒲公英も咲きてあらわに野の起伏/小峠静水
★ギッシリと釘煮の春を賜れり/碇英一
★干潟白きに紺碧の海膨れくる/おおにしひろし 

【入選22句】

★芽木光り空へと岸の風抜ける/宮地ゆうこ
★真みどりに変わりし若布潮の香を/祝恵子
★一仕事終え沈丁の香を踏めり/柳原美知子
★民族の棲み分け難し鳥雲に/磯部勇吉
★寺の鐘くすの木を抜け春空へ/加納淑子 
★犬ふぐり園児らの影走り過ぐ/堀佐夜子
★水面蹴り残らず飛びぬ春の雁/都久俊
★仏舎利塔へ楓くれないに芽吹きけり/古田けいじ
★削り終え残りし山の笑い出す/平野あや子(信之添削)
★青き踏むコース離れし散歩径/澤井渥 
★山道の杉からぼたぼた春の雪/河ひろこ
★幸せの風をくぐりてしゃぼん玉/片平奈美
★春告草また始めたりウオーキング/都久俊
★夕映えに輝く窓や日の永し/岩本康子
★青饅や旧談に過ぐ友との宵/河勝比呂詩
★春風に長い少女の髪なびき/大給圭泉
★大試験一番風呂の長女おり/日野正人
★銀閣の雪消の雫受けにけり/福田由平
★活けられて花菜の今日を楽しめり/福田由平 
★靴音を分ける霞の中にをり/大石和堂
★電話すぐとって春日遅々とする/多田有花
★瀬戸内に落ちる夕陽や春の風/高橋秀之

▼選者詠/高橋正子
春寒き桜の幹に艶目立つ
春の夜のぬいぐるみたち清潔に
家うちを行き来するにも春寒き  

第154回入賞発表(3月10日)/高橋正子選評 

【金賞】
★春野より春の人乗せ無人駅/河勝比呂詩
春の野を歩いて来た人は、すっかり「春の人」となっていて、服装
も春らしいのだろうが、その人を乗せて電車がまた出発する。春野
の若い緑が印象に残る、命のさわやかな句である。

【銀賞】
★活けられて花菜の花のちりこぼれ /福田由平
花菜は、活けられると間もなく、はらはらとちりこぼれる。「ちり
こぼれる」と言うのに本当に相応しい。春の詰まったような花菜の
、散り際の「そこはかとなさ」もまたよい。

【銅賞/2句】
★須磨浦の沸き返へりたるいかなご漁/小原亜子
春のいかなご漁といえば、須磨明石。春一番の美味を頂ける嬉しさ
に、浦ごと、浦人ごとが沸き返っている。「須磨浦」という地名の
ゆかしさもあって、生きいきとした絵巻を見るような光景。

★幾筋も畝にあふれて春キャベツ/平野あや子
柔らかな春のキャベツが、累々と畝にあふれて、広々とした畑の春
らしい清々しさがある。

【特選5句】

★薔薇の芽を高きに見れば陽に透ける/古田けいじ
★芽吹く木を見上げ大空低くなる/加納淑子
★雉子の声沁みて真向いの青き山/小峠静水
★春暁のすずめの羽ばたき懸命に/碇英一
★春泥を跳ねて靴先光りだす/藤田洋子 

【入選17句】

★雨降れば沈丁花の香濃く匂う/堀佐夜子
★春の霜鍬ひと振りを寄せつけず/今井伊佐夫
★柔らかに春月傾ぎ更けゆけり/山野きみ子
★春宵に山の黒さの際立ちて/脇美代子
★寒桜二日雨降り白きを磴に/おおにしひろし
★杉の花枝ゆさゆさと風誘う/磯部勇吉
★野遊びへ嬰が集まりて犬も居て/霧野萬地郎
★橋渡る自転車光り春の風/岩本康子
★春寒きボートは波をけたてゆく/祝恵子
★春あられ軽ろく荒けし屋根の音/能作靖雄
★風車長押に置かれそのままに/相沢野風村
★母の雛子に飾りおる奥座敷/多田有花
★日矢移る速さに光るいぬふぐり/宮地ゆうこ
★海原の春風に舞うカモメたち/大給圭泉
★陽炎を追いかけてゆく一輪車/右田俊郎
★日だまりに胞子飛ばしてつくつくし/池田和枝 
★新学期遊具のタイヤ塗り変る/澤井渥 

▼選者詠/高橋正子
屈まれば草の蓬の香の強し
種芋のうすく汚れたるを陽に
紙箱に詰めて種芋売られたる