■さら句会/入賞発表(26)■

第136回(2月12日)〜第147回(2月27日) 




第147回入賞発表(2月27日)/高橋正子選評



【金賞】

★木蓮に光あふれて白開く/池田多津子

この句の木蓮は白木蓮。白木蓮の花は、光で出来ていると言い

たいほどの白さである。「白開く」は、輝くような白い花を表

現していて的確。



【銀賞】

★磯の香を町一杯に若布干す/平野あや子

若布を干すと漁師町は、町中が磯の香りに満たされる。若布が

干さている光景そのものが磯の町の春である。



【銅賞/2句】

★山里の飯屋に熱き蜆汁/今井伊佐夫

蜆汁の熱さ、それは美味さに繋がるが、山里の早春の純朴な温

かさが伝わってくる実感の篭った句である。



★オルガンの旋律春陽に膨らめる/岩本康子

春の陽に、オルガンの音色と旋律が溶け込んで、膨らんだ感じ

がする。オルガンは春の空気に生きている。



【特選5句】



★伊予柑のずっしり重き甘さ摘む/おおにしひろし

★潮騒に包まれている夜の梅/多田有花

★明日帰る鳥かもしれず啼き交わす/小原亜子 

<アンコール・トム(大きな町)にて>

★神々の阿吽吐く道灼けており/霧野萬地郎

★ペン先のインク滲みて鳥曇/池田和枝 



【入選/21句】



★掘割りの果て朧なる灯の幾つ /山野きみ子

★梅の白空へと散るや二月尽/宮地ゆうこ

★筍の小振り三本夕厨/堀佐夜子

★たった今生まれたような沈丁花/加納淑子

★家毎に朧の暈をひとつづつ/小峠静水 

★バラの芽もアジサイの芽も紅に/古田けいじ

★大河なるたゆとう水面風光る/能作靖雄 

★春うらら如拙の瓢鮎禅問答/都久俊

★回るネオン淡雪の夜の理髪店/河ひろこ

★切り子ガラス春日をうけて濃く光り/祝恵子 

★新しきパソコン小脇に風光る/多田有花

★鳥風の音に目覚める二階窓/相沢野風村

★すれ違う児の鈴の音や沈丁花/大給圭泉

★がらくたを擡げ水仙芽を伸ばす/磯部勇吉

★蕗のとう柿の根四方に伸びており/脇美代子

★春の雪解けて現わる小さき芽/冬山蕗風 

★春宵や照明のともり芝の青/下地鉄朗 

★料峭の外出の朝の嬉しさ/福田由平

★少しづつ大きくなりし山笑う/澤井渥

★お捻りに猿の一芸梅祭り/石井信雄

★梅咲かむ朝日に紅く応えいて/河勝比呂詩



▼選者詠/高橋正子

独活すでに解けし葉あり緑濃き

冷蔵庫に独活数本の色納む

伊予柑を香らす夜のしじまにも  





第146回入賞発表(2月26日)/高橋正子選評



【金賞】

★春北斗大きく懸けて山連なる/宮地ゆうこ

春の夜空に懸かる北斗七星は、温んだ大気に光りが潤んで、大

らかに感じられる。「懸けて」の主語は、連なる山。連なる山

は、北斗七星を懸けてどっしりと横たわっている。



【銀賞】

★夕日背になずな鳴らして野の道を/堀佐夜子

童謡詩のような句。夕日を背に、なずなを鳴らしながら帰る野

の道が、なつかしく、優しい色合いで受け止められる。



【銅賞/2句】

★日向より日蔭も伸びて草萌える/小峠静水

日向の草は、むろん盛んに萌えているが、日蔭のはこべなども

日向より丈高くなって萌えている。草の萌え方のおもしろさに

気づく。



★楠萌えて青き空より枝下し/山野きみ子

大きく枝を張った楠が萌えはじめた。空から枝を下げおろすよ

うに、萌える枝をのばしている。楠のあかるく萌える葉の色と

、青空の色調が美しく透明感がある。



【特選5句】



★大いなる青磁の壷に満たす水仙/おおにしひろし(正子添削)

★里山を映して揺れる春の水/岩本康子

<アンコール・ワットの中央祠塔へ>

★神々の棲む天空に端居かな/霧野萬地郎

★見渡せばいのちに煙る春の森/多田有花

★白椿夜の花びらの冷えわたり/藤田洋子 



【入選15句】



★ともづなを強く投げ打つ二月尽/平野あや子

★土匂う畝に温もり地虫出ず/能作靖雄

★門灯に蕾光らせ白木蓮/古田けいじ

★盆の地の全身で受ける春の風/相沢野風村

★水面には雲と岸辺の猫柳/右田俊郎

★蕗の薹ひとつ見つけて一つ採る/磯部勇吉

★烏骨鶏の温み卵に春遅し/守屋光雅

★句集を読む梅の芽のふくらみをみる/福田由平

★春宵の歩けば足の軽さかな/脇美代子

★柳の芽猿沢池の黄土いろ/澤井渥 

★春の日の風やはらかな美術館/池田和枝

★乗り換えて酒造の街の春歩く/祝恵子(正子添削) 

★いかなご煮播磨の旬を告げにけり/河勝比呂詩

★頂上に月傾けて木々寒し/大給圭泉 

★階毎に雛飾りたる老人ホーム/碇英一





▼選者詠/高橋正子

目白の目逆さに梅の蜜を吸う

寺内の畑のすみれ明るかり

梅林に平らな海の横たわる  





第145回入賞発表(2月25日)/高橋正子選評



【金賞】

★遅き日の原木温く運びくる/宮地ゆうこ

遅々として暮れかねる日を溜めて、原木が運ばれてくる。その

木肌にある温みを感じながら、原木の荷運びの仕事をしている

のか。すでに暖かい日がある。



【銀賞】

★紅梅の蕾み膨らむ機械室/今井伊佐夫

無骨な機械室にも、紅梅が挿され、蕾が膨らんでいて、心が和

む。紅梅であるから明るい機械室となっている。紅梅を挿した

人の心遣いが温かい。



【銅賞/2句】

★春の雪止みて入日の赤い空/河野齊

春の雪が止むと、入日の空が赤々と焼けている。もう雪は終わ

りなのかもしれない。ほっとしたあかるい心が読者にまで沁み

てくる。



★いかなごのくぎ煮や瀬戸の春を知る/多田有花

いかなごは、今ごろから3月ごろよく捕れ、いかなごが捕れる

と春の来た知らせでもある。瀬戸内の春の明るさが満ちた句で

あるが、「いかなご」が、春の季語なので「春を知る」を工夫

されたい。



【特選5句】



★測量機の視野に春光満たしけり/おおにしひろし

★新しき部屋の出窓に菜の花を/古田けいじ

★鳥帰る湖に羽毛の漂えり/磯部勇吉

★春の雪雨に移ろい西銀座/山野きみ子

★工房にガラスの雛の飾られて/祝恵子 



【入選14句】



★枝垂れ梅さやかに風になじみおり/大給圭泉

★春雷や鑑真和上のしづかな眼/池田和枝

★ふらここの陽と子の温もり残しけり/相沢野風村

★教室に子らによく似た紙の雛/池田多津子

★郊外の電車カタコト春日差し/林緑丘

★切り貼りし障子の白さ幾何模様/澤井渥

★春寒や足ひやひやと寺の縁/都久俊

★春灯を消して下弦の月赤し/堀佐夜子 

★蝋梅の一輪に顔寄す庭若木/能作靖雄

★孫娘母のお雛も壇上に/河勝比呂詩 

★鬼笑う大ラグビーのノーサイド/守屋光雅

★自動ドア―開いて疑う余寒かな/小峠静水

★野辺送り梅の遅速を見落として/藤田荘二

★ラジコン機春立つ空へ舞い上がり/津村昭彦 





▼選者詠/高橋正子

寒桜うつむき雨を通しけり

 秋山好古の銅像

芽木の丘海を見て佇つ好古像

黄檗の寺に湧きたる春の海霧  





第144回入賞発表(2月24日)/高橋正子選評



【金賞】

★晴れ渡る春一色の空円き/馬場江都

空の円さを印象付けてくれるのは、やはり、春のやわらかな青

い空であろう。すっきりと晴れ渡った空にも、そのほかの季節

とは違う春の色がある。



【銀賞】

★春の雨母校がしずかに遠くなる/野仁志水音

「しずかに遠くなる」には、感傷ではない真実の思いが汲み取

れる。愛し学んだ学校が、遠くなるさびしさが素直に詠まれて

いる。



【銅賞/2句】

★早春の沖へ一線水尾引く/藤田洋子

沖へ向けて引かれる一線が、水尾であってやわらかい。沖へと

縦に引かれる水尾が、早春のほの明るい海を伝えている。



★玄関に菊菜一束置いて来し/池田和枝

寒の間は傷んでいた春菊も、日脚が伸びるにつれて緑も濃く、

香りも強くなる。親しい人の玄関に、畑から採ったばかりの春

菊を一束置いて来れるほどの春になった嬉しさがある。



【特選5句】



★折れ落ちし枝に咲たる榛の花/磯部勇吉

雪で折れて落ちた枝なのだろうか。折れて落ちた榛の枝に花が

咲いていることへの驚き。湿原の春は、木々にもう来ているの

である。



★水仙の窪みに芽生ふ舗装道/今井伊佐夫

★煙みな西に棚引く春の空/岩本康子

★草萌える平行線路の真中に/戸原琴

<アンコール・ワット内にて>

★風光る壁画の果てぬ石回廊/霧野萬地郎 



【入選17句】



★しだれ梅枝先までも命張る/山野きみ子

★雨上がる芽吹きの色に森煙る/古田けいじ

★東風吹くと漁夫の荒声帰港せる/平野あや子

★煙の香どこかで畑を焼いている/多田有花

★早春や水に日をのせ藻の青き/大給圭泉

★朝の陽を透かせて杏林の花白々/おおにしひろし

★磯の香を濃く運び来る春の風/右田俊郎

★探梅や母校にきている車椅子/堀佐夜子

★窓よりのコックの帽子蓬パン/祝恵子

★明るくて見上げてうれし雛飾り/脇美代子

★淡雪の静かに舞いて降り重ね/相沢野風村

★待春や更に小さくなりし母/澤井渥 

★椿挿す柱の竹かご赤一輪/池田多津子

★白梅のふるえるほどに春の雪/加納淑子

★泥つけて在所春菜の今届く/小峠静水

★遠海に日の照りつつも余寒かな/下地鉄朗 

★揺られつつわらべぶらんこ語り合い/河勝比呂詩  





第143回入賞発表(2月21日〜23日)/高橋正子選@



【金賞】

★松割り木脂(やに)出尽くして春の陽に/河勝比呂詩

冬の間に松の割り木が、すっかり脂を出して充分に乾き、いい

薪になった。乾いた割り木に春の陽が差して軽い感じであるの

がよい。(高橋正子)



【銀賞】

★我が身より影出て動く春燈に/柳原美知子

「犬がその影より足を出してはゆく/篠原梵」という句があるが

、これは、その類句ではない。発想が違う。俳句は短い詩なの

で、似た句が多いが、類句を恐れてはならない。むしろ、大い

に良い句の良いところを取り入れたらいい。(高橋信之)



【銅賞/2句】

★滝解けて流れ新たにかがやける/山野きみ子

「新たに」がいい。早春である。この句には、季語がないが、

「滝解けて」を「滝」の「氷解く」と解し、早春の季感を読み

取った。(高橋信之)



★しぶきが揃うレガッタ春の橋潜る/福田由平(信之添削)

ボートのオールが揃って、白いしぶきをあげて進む様子が、生

き生きと把えられて、水も温んでいて春らしい。(高橋正子)



【特選6句】



★雛あられ色とりどりに軽さあり/池田多津子

雛あられが炒られて軽くなり、とりどりのどの色も淡い。雛あ

られの軽さが雛の節句にふさわしく可愛いものになっている。

(高橋正子)



★春菊の青き香りをざっくりと/池田和枝

「青き香り」である。日常の生活に巡ってくる「春」を確かな

ものとして捉えた。「ざっくりと」がさらに確かなものとした

。(高橋信之)



★耕せば仙台平野青と黒/相沢野風村

「青と黒」は、草木の緑であり、大地の黒である。そう解釈し

なければ、この句は、死んでしまう。「耕」は、春の季語。

(高橋信之)



★師の描く土筆机上を飾りける/安丸てつじ

★春暁の客船白く瀬戸を出る/平野あや子

★今朝の窓どかり春雪座して居り/守屋光雅  





第143回入賞発表(2月21日〜23日)/高橋正子選A



【入選27句】



★担えれば棺の軽し梅二月/藤田荘二

★水底と向き合って咲く紅椿/加納淑子

★四ツ辻を東風の吹き抜け匂い立つ/大給圭泉

★春あけぼのアンコールワットの水も空も/霧野萬地郎

★梅の香の枝の高さに海たいら/おおにしひろし

★鋤鍬の耕し浅き所に立つ/小峠静水

★下萌えの野原で家族のボール蹴り/岩本康子

★囀りや朝の天地を広くして/多田有花

★梅咲いて海の蒼さの深くなる/吉田晃

★紅梅や香は風と和し時と和し/大石和堂

★目白見え隠れ満開の寒桜/藤田洋子

★灯されし電話ボックスに春の雪/河ひろこ

★残り鴨波のかたちに揺れており/澤井渥

★梅蕾固ければ挿す甕の水/脇美代子

★飛行雲ふくらんで行く春の空/磯部勇吉

★春時雨お寺の石段光らせる/日野正人

★降りしきる雨の校舎を卒業す/野仁志水音

★日本海白鳥帰る雲黒し/能作靖雄

★稿債を抱え二月の過ぎやすく/野田ゆたか

★十年の講師の職を離る春/安丸てつじ

★君は牡蠣僕は味噌とく二人鍋/林緑丘

★生き甲斐を追い続けるや桜草/堀佐夜子

★春月や無機質なるもの和らぎて/河勝比呂詩

★春寒や鳥打帽に夜を守る/碇英一

★バスを待つ句集へ今朝は冴え返る

★春雷や明日蒔く種のさらさらと/宮地ゆうこ

★ガラス器のこでまり触れくる流し台/祝恵子  





第142回入賞発表(2月20日)/高橋正子選評



【金賞】

★凍滝の透明を水くぐり落つ/おおにしひろし

凍てた滝でありながら、その中を凍らない水が動いて流れ落ち

ている。透明な氷を澄んだ水が細く、くぐり落ちて、透明な世

界が極まっている。



【銀賞】

★春の蚊の脚に屈折ありにけり/碇英一

冬の間は、どうしていた蚊かと思われるが、春の生暖かい空気

に現れた蚊の脚に、「屈折」を見た。蚊の脚の屈折は弱々しい

。弱々しい命をいとおしく思った。



【銅賞】

★付箋貼る辞書の重さや多喜二の忌/池田和枝

小林多喜二の忌日は、2月20日。プロレタリア文学作家とし

て、「蟹工船」など古典的名作を残したが、1933年2月特

高の拷問により虐殺された。付箋を貼り重さを増し、幾度も繰

って厚みの出た辞書に、辛苦に耐え学んだものの跡が残されて

いる。それに多喜二の生き方が思い合わされる。



【特選/5句】



 <カンボジア・シェムリアップ市街にて>

★荷物車の子らが手を振り万緑へ/霧野萬地郎

★朝の雨滴るままに桜挿す/宮地ゆうこ

★タンポポのまだ地に近く開きけり/古田けいじ

★水仙の花の向き向き雨上がる/藤田洋子

★白鳥の磁針となりて帰りけり/磯部勇吉 



【入選20句】



★青空の深みへ木の芽背伸びする/日野正人

★多喜二忌や心片付け灯り消す/小原亜子

★薄氷に陽の高くあり底動く/相沢野風村(正子添削)

★春灯に下山の足の速まりぬ/岩本康子

★料峭の中を歩いて行き戻る/多田有花

★こてまりの真白き花が揺れおりぬ/堀佐夜子

★梅の花散りてこの蘂実となれや/石井信雄

★耕され土生き生きと呼吸せり/脇美代子   

★水温む小さき流れに菜を洗う/池田多津子

★焼き芋屋曲がりくねりに笛遠し/河ひろこ 

★春泥や土管治まる造成地 /平野あや子

★貰われてゆきし古雛よ床飾り/山野きみ子 

★東風吹かば故郷恋うる鶴翔けり/能作靖雄

★軽トラ颯爽と行く二月晴れ/龍造寺規谷

★桃の花挿せば壁には命名書/祝恵子

★風光るプリクラ撮り終えさようなら/野仁志水音

★春ひかり牛の尾につく泥乾く/小峠静水 

★母卆寿椿ひとしお紅の濃く/大給圭泉

★春浅しテトラポットに鯔を釣る/澤井渥

★口論に倦みて眼を閉ず余寒かな/右田俊郎



▼選者詠/高橋正子

春雷の一つの音にはじまりぬ

一本のペンと句帳と冴え返る

フリージアの香を肺深く沈めたり  





第141回入賞発表(2月19日)/高橋正子選評



【金賞】

★蕗のとう真白き和紙に揚げらるる/今井伊佐夫

「真白き和紙」が、てんぷらの蕗のとうとよく似合って、早春

のやわらかさ、淡さが感じ取れる。季節の新しさが、日常生活

を潤いのあるものにしてくれてうれしい。



【銀賞】

<カンボジア・シェムリアップ市街にて>

★復興の槌音高しつばくらめ/霧野萬地郎

「槌音高し」と「つばくらめ」に、作者の復興への願いが読み

取れて、心高い気持ちがある。草田男の句に詠まれた日本の戦

後の復興時の精神を感じた。



【銅賞/2句】

★男坂一気に磴る梅まつり/石井信雄

男坂の険しい坂を一気に磴る気迫が、梅の花の潔さに通じてい

る。男性らしい一句で華やかさもある。



★蕾まだほどけぬ椿の紅き玉/馬場江都

無理のない自然な句で、優しい人柄が出ている。「紅き玉」の

椿の蕾の表情が本当にかわいらしい。



【特選/5句】



★クロッカス風の高さに土目覚め/小峠静水

★こでまりの早や咲く花屋のガラス越し/古田けいじ

★ものの芽やみなそれぞれの色を持ち/多田有花

★二ン月の豆つややかに煮上がれり/平野あや子

★月浩々梅の白さの際立てり/右田俊郎 



【入選12句】



★春泥の乾く明るさ畦真直ぐ/宮地ゆうこ

★たんぽぽの葉は地を離れ伸びんとす/池田多津子

★春の日を窓全開にして浴びる/磯部勇吉

★新築の灯しに浮かぶ夜の梅/能作靖雄

★園児らの声にぎやかに雪解の日/守屋光雅

★梅の木を余さぬ花の咲きにけり/大給圭泉

★新刊の栞は堅き雨水かな/脇美代子

★閉じし目も春日を浴びて光る朝/藤田荘二

★春満月百万弗の街灯り/都久俊 

★己が影崩してたてり春かもめ/澤井渥 

★足湯して足に春風吹いてくる/おおにしひろし

★階段を素足下り来る春の朝/堀佐夜子 



▼選者詠/高橋正子

笹鳴きの耳を掠めてそれっきり

水栓の水凍つほどに椿咲き

かすてらの卵の黄色草萌える  

 

 

第140回入賞発表(2月18日)/高橋正子選



【金賞】

★みなどこかへ帰り着くなり鳥曇/多田有花

鳥も、人も結局どこかへ帰りつく処がある。みんなその処をも

っている。その認識に至ると、一個の人間のもつ、少しの寂し

さとせつなさを鳥曇の空に思う。(高橋正子)



【銀賞】

★春満月野に煌けるもの満ちて/おおにしひろし

野に煌くものが何か具体的にはわからないが、春の満月が野を

照らすと、心の内に煌く思いがわき、胸を満たす、ということ

なのであろう。春月の夜の美しさを詠んだ。(高橋正子)



【銅賞/2句】

★返されし土に雲雀の鳴き止まず/脇美代子

雲雀と、耕し返された土とに、俳味が生れて味わいがある。鳴

き止まない雲雀も、ありのままの姿を見せて、飾らない野の命

のよさがある。(高橋正子)



★春の日の樹影に我が影重なれる/岩本康子

春の日がよく差してきて、樹の影をつくり、自分の影をすっぽ

りと入れ込んだ。春の日光の力に、自分の存在を見、また感じ

た。(高橋正子)



【特選/5句】



<アンコール遺跡への旅>

★メコン越え野焼きの煙幾筋も/霧野萬地郎

大きな世界です。大河の流れの焦点となって「野焼き」がとて

もリアルで、風景が生きています。上五の「メコン越え」が作

者の旅心を伝えてくれます。(高橋信之)



★脱ぎすてし子らの上着が春草に/池田多津子(正子添削)

★城見える土手に蓬を摘んでみる/古田けいじ

★春潮に遡行の積荷軽き舟/山野きみ子 

★春寒や日暮の見えぬ雨なれば/加納淑子



【入選14句】

★春泥の乾く明るさ畦真直ぐ/宮地ゆうこ

★たんぽぽの葉は地を離れ伸びんとす/池田多津子

★春の日を窓全開にして浴びる/磯部勇吉

★新築の灯しに浮かぶ夜の梅/能作靖雄

★園児らの声にぎやかに雪解の日/守屋光雅

★寺の屋根鯱逆立ちし梅香る/祝恵子

★反戦のデモの広がる余寒かな/磯部勇吉

★浅蜊とる渚近くの小粒なり/澤井渥  

★大白鳥翼光れる一年生/能作靖雄

★暖房の部屋に鳴り継ぐキーボード/龍造寺規谷 

★白壁の目にやわらかき紅梅や/堀佐夜子

★山畑の春雨しみてめざめけり/大給圭泉

★日のぬくみ残る苔あり椿落つ/小峠静水

★日に一度雪割り桜の香の下に/宮地ゆうこ  





第139回入賞発表(2月17日)/高橋正子選評



【金賞】

★鳥雲に長き鉄橋渡る汽車/山野きみ子

鳥が雲に入る空の下の鉄橋を長々と渡る汽車の眺望に、早春の

かぎろうような気分がよく表されている。



【銀賞】

★梅ほつほつ人ほつほつの日差し来し/小峠静水

早春の「日差し」がいい。作者の心境がいい。(評:高橋信之)



【銅賞/2句】

★芽木ゆれて山にいのちの満ちる音/宮地ゆうこ

少しの作為が見えるが、強い実感があるので、それが許される

のである。(評:高橋信之)



★揚ひばり子らが競いてボールける/祝恵子

雲雀が囀るようになり、子どもたちも活発に動いて、春らしく

なったことを実感する。ボールは蹴られて、雲雀の囀る空まで

上がる。子どもの世界を明るく詠んだ。



【特選/5句】



★閑けさにきしっと屋根鳴り春近し/河ひろこ

★蓮華田に寝転び真っ青な空の底/おおにしひろし

★しじみ汁真白きご飯と湯気二つ/相沢野風村

★水温み池にあかるい動きくる/霧野萬地郎

★薄氷に触れて甕水揺らしける/脇美代子 



【入選20句】



★水皺の生るる水田春あさし/石井信雄

★冴返り真白き雪の街となり/今井伊佐夫

★木蓮の芽のふっくらと手に優し/磯部勇吉

★春雨をいつかタイヤの音で知る/多田有花

★風湧くやふらここ揺れし大波に/平野あや子

★泥まみれされど眩しき葱の白/右田俊郎

★素足になり軽く踏めば土は春/吉田晃

★人去りし広場に大きな春の月/岩本康子

★娘なき家に掲げる色紙雛/都久俊

★春満月夫の呼ぶ声窓開けて/堀佐夜子

★春光を集めさざ波ひかり会う/加納淑子

★沖かすむ巨船曳っぱるタグボート/澤井渥

★風光る信号一列ランドセル/古田けいじ

★畦道に爺と煙草と蕗の薹/池田和枝

★雪解水や岩をも砕きほとばしる/能作靖雄

★早春の日差し移ろふ陶の里/大給圭泉

★風頬に芽吹きし谷を遡る/宮地ゆうこ

★紙雛を色とりどりに吾子と折る/河ひろこ

★春日向踏めば靴底ふわふわと/日野正人

★冴え返る今日の満月くっきりと/野仁志水音 



▼選者詠/高橋正子 

沈丁花奥の家より鳴るピアノ

春の風大きな空を降りて来る

桜の芽楓の芽あり仰ぎ見て  



 

第138回入賞発表(2月14日〜16日)/高橋正子選評@



【金賞】

★そのままに流るる雲や花菜咲く/安丸てつじ

菜花の黄が、醒めた色となり作者を惹くものとなっているが、

さらに作者を惹くのは、はるか高くを「そのままに流るる雲」

で、雲の美しさを形容して回想の抒情が引き起こされている。



【銀賞】

★チラシ紙次々風船出来上がる/堀佐夜子

新聞広告の沢山のチラシを、何にしようと思うけれど、手慰み

に出来たものは、折り紙の紙風船である。一つ出来、また一つ

出来た。人柄が偲ばれる句である。



【銅賞/2句】

★雲の影山より来るやふきのとう/大給圭泉

春蔭のなかの黄みどりのふきのとうの一顆、一顆がふくらかで

ある。大きな雲が山からやって来る一日の雲の動きも、この季

節の感じである。



★春の田に挟まれ自転車強く漕ぐ/野仁志水音

田に草が萌え始め、早い田は青んでいるかもしれない。そんな

春の田の間の道を、風も吹いているのだろうが、自転車をぐい

ぐいと漕いでいる姿に若さと人間的よさがある。



【特選5句】



★筆を買う春一番の明けの日に/野田ゆたか

「筆を買う」日常は、穏やかで静かで、それでいて緊張がある

。「春一番」の季節である。(評:高橋信之)



★山茶花のくれない日々の目に馴ずみ/碇英一

★広々と真四角の畑耕さる/池田多津子

★旅人のように通勤春の朝/岩本康子

★笹子鳴く辺りはすでに国境/磯部勇吉  





第138回入賞発表(2月14日〜16日)/高橋正子選評A

  

【入選30句】



★木の校舎に春の朝日が照り返る/日野正人

★その中の真白き一枝椿剪る/おおにしひろし 

★前掛けに蕗の薹抱き山下る/宮地ゆうこ

★影踏みて遊ぶ春日の兄妹/祝恵子

★風見鶏向きのかわりて春風に/相沢野風村

★鵜の増えて運河煌く春となる/古田けいじ

★茶畑の整然とあり飛機下りる/脇美代子

 (信之先生宅)

★浅春の祝いの皿にバジル濃き/柳原美知子

★春帽子賽銭箱の隅に置く/今井伊佐夫

★雲梯にのどけき光の乱反射/吉田晃

★日の差して遠嶺にかかる春霞/多田有花

★梅林の彼方の空に天守閣/馬場江都

<鎌倉文学館にて>

★高窓に古都の屋並と春の海/霧野萬地郎

★春泥の感触得つつ緩斜面/河勝比呂詩

★故郷はなつかしきもの水菜炊く/小原亜子

★耕耘機泥落しつつ帰りゆく/澤井渥

★おおらかに湯呑つつみて春寒し/池田和枝

★霜枯れの茎に副木し明日を待つ/林緑丘

★仏像の微笑む傍の桜の芽/右田俊郎

★神木の楠の雪折れ匂う朝/小峠静水 

★銀紙で兜折りたりバレンタインデイ/都久俊

★箱入りの春靴を出し並べみる/河ひろこ

★粉雪の舞う上を行く黒い鳥/龍造寺規谷

★雪折れし松より眺む峯茜/能作靖雄 

★雪の上我が影動き鶏の鳴く/守屋光雅

★水温む魚市場見る学習児/平野あや子 

★白梅や両手差し出す幼い児/加納淑子 

★水温む岸辺をたたく波の音/山野きみ子

★スイートピー挿す花器の色淡き青/堀佐夜子

★空港の輝きつづく春の窓/野仁志水音



▼選者詠/高橋正子

雛菓子に桜花の匂いたたみいれ

温泉の湯の冷めやすく春浅し

春灯をはずれしところ本を積み  





第137回入賞発表(2月13日)/高橋正子選評

  

【金賞】

★種袋畝の数ほど並べける/宮地ゆうこ

種の袋を畝の数だけ並べて、あれこれと蒔こうと思い、ずいぶ

ん楽しそうである。春の日の農の生活の楽しさがよく詠まれて

いる。



【銀賞】

★コーヒーミル廻して春の香を満たす/加納淑子

コーヒーミルを廻してコーヒー豆を挽き、その香を楽しんで、

春のきた嬉しさを身に感じている。春めくと、コーヒーの香り

は本当に嬉しく、心を満たしてくれるものである。



【銅賞/2句】

★石鎚のおぼろに現れて麦を踏む/おおにしひろし

遠くに石鎚を眺めて、麦踏みをする昔から変わらぬ光景がある

ことは嬉しいし、麦踏みには、遠い山が似合う。



★遠海の蒼重かりぬ冱返り/岩本康子

「冴え返る」により海水の色も引き締まり、遠海の蒼い色が澄

んで、深みが加わった。それが「重かりぬ」で成熟した感覚。

気温や天気によって様ざまな表情を見せる海水の色に飽きるこ

とはない。



【特選/5句】



★春の坂風切り下る海青し/野仁志水音(正子添削)

★探梅の電動椅子の影先へ/祝恵子

★風花の散らす光を惜しみけり/磯部勇吉

★フレーズの身にしみにけり早春賦/今井伊佐夫

★五分咲きに枝交し合う紅白梅/古田けいじ 



【入選15句】



★まんさくの先に動かぬ由比ガ浜 /霧野萬地郎

★入り船と出船を分ける海猫の声/能作靖雄 

★水音の生まれたばかり猫柳/藤田洋子

★キラキラと水平線まで春の海/吉田晃

★出漁の船音弾み春きざす/平野あや子 

★巣づくりの雀の鳴き声響く朝/高橋秀之

★手を合わす若きら天満宮の春/山野きみ子

★木々囲む料峭のテニスコートかな/多田有花

★春の雪急ぎ歩けばまつわりて/相沢野風村 

★蕗のとう去年と同じ場所に顔/右田俊郎

★春の宵楕円形なる月あがる/堀佐夜子

★雪解けて根茎張り出す土の壁 /龍造寺規谷

★山笑う林間いまだ密ならず/河勝比呂詩

★少年や日光写真の錦之助/小峠静水 

★露天湯の足裏貼り付く石の冷え/澤井渥 



▼選者詠/高橋正子

ひともとの菜花の黄色道端に

春星のポプラに触れてきらきらと

雲を出て春星ひとつのみどりなる





第136回入賞発表(2月12日)/高橋正子選



【金賞】

★水替えて水仙の向き整えり/藤田洋子

水を替えるのに花の向きが乱れた水仙を、また整えて凛とした

姿にした。花の心を大切にする女性らしさに加え、水仙の花に

も通う芯の通った落ち着きを感じさせてくれる句である。(高

橋正子)



【銀賞】

★白鳥のすでに引きたる湖の隙/磯部勇吉

白鳥の一部は既に帰り、白鳥に埋まっていた湖にも隙ができた

。これから白鳥がつぎつぎ帰って行くのであろうが、別れの淋

しさが湖の隙に見て取れる。(高橋正子)



【銅賞/2句】

★風を真に受けいて春を待てる日々/龍造寺規谷

いい句です。言葉が平易で、平易のなかに緊張感があって、作

り手の情感が無理なく伝わってきます。季語、切れ字にも問題

がありませんね。(高橋信之) 



★庭蔭にうすみどりして蕗の薹/石井信雄

平淡でおとなしい句であるが、蕗の薹を庭の蔭に見つけた小さ

な喜びが、「うすみどり」の色の一点に絞って、つつましく詠

まれた。(高橋正子)



【特選/5句】



★終の地と思いて若布干してをり/平野あや子

「若布」は春の季語で、その「若布」と「終の地」との取り合

わせにいい詩情があって、句のレベルが高い。背景にある海の

イメージにも深いものがあって、読み手の心を打つ。(高橋信

之)



★石鎚へ雲流れ流れ菜の花忌/おおにしひろし

★光り浮く深き雪間の合掌村/能作靖雄

★春の昼銀色放つ屋根長し/日野正人

★長く伸び我が影春の浜駈ける/野仁志水音 



【入選18句】



★菜の花忌醇風なりし日々の中/大石和堂

★版画絵を囲炉裏に見入る冬の午後/河ひろこ

★春の田や東を向いてつぐみ立つ/多田有花

★早春の海へ江ノ電空っぽで/霧野萬地郎

★友と行く散歩がてらに春の町/堀佐夜子

★鶯餅木皿に盛れば笑みこぼる/柳原美知子

★すれ違う和装婦人の春めきて/大給圭泉 

★ハングライダーふわっと離れ山笑う/河勝比呂詩 

★美術館出でて岸辺の猫柳/池田和枝

★梅の寺湧井の竹杓青々と/小峠静水 

★貝寄風や波止より低き漁師町/澤井渥

★薄氷川面の上を流れゆく/相沢野風村

★早春の石の欄干陽を溜める/古田けいじ

★早春の森のきらめく雨後の朝/馬場江都 

★春寒し水面に垂れし芽柳も/加納淑子 

★春の雨やんで新装医院の灯/祝恵子

★菊若葉つまむ子の指やわらかし/宮地ゆうこ 

★水仙の咲き揃いたる土手明るし/岩本康子 



▼選者詠/高橋正子

春光にきらきら池をこぼる水

水流し春のキャベツの葉を剥ぎぬ

やわらかに春のキャベツを積んで売り