■さら句会/入賞発表L■

第71回(11月7日)〜第75回(11月13日)

■第75回入賞発表(11月13日)/高橋正子選評


【金賞】
★ビル壁のただ垂直に冬天へ/宮地ゆうこ
冬天とビルだけがすっきりと詠まれた。「ただ」に詠み手の思いがあるが、言葉に装飾がなくストレートであるのが「冬」を言うのによい。

【銀賞】
★低き日の銀杏横より染め上げる/山野きみ子  

【銅賞】
★冬麗の瀬の耀きに耳澄ます/おおにしひろし


【特選5句】

★干し柿を移す朝陽の来る方へ/古田けいじ
干し柿を雨に当てないように、夜露に当てないように陰に入れていたものを、朝日に当たるように移す。その心配りと明暗が、干し柿を朝日にいっそう輝かしている。

★大正の蒼きグラスや銀杏散る/池田和枝
蒼いグラスと銀杏の黄色、そして銀杏の散る動きは、大正ロマンの世界そのまま。少し遠くなった世界だが、ときに身近に寄って来る。

★精出せば汗ばむことも冬五日/河勝比呂詩
★支え合う言葉言えずにストーブ燃ゆ/堀佐夜子
★青空に蜜柑摘む音絶え間なく/池田多津子


【入選18句】

★雲動く初冬の日差しこぼしつつ/藤田洋子
★はらからの古里守りし山眠る/平野あや子
★ざっくりと大根把ねて土産とす/宮地ゆうこ
★ジャンパーが似合う少年期の終わり/多田有花
★掃き寄せる音の大きく柿落葉/藤田洋子
★閉め切って雨戸火のごと蔦紅葉/加納淑子
★日の差さぬ裏の黄葉の極れり/磯部勇吉
★街路樹のもみじ照る道降れる道/福田由平
★落葉紅し裏返りては仄紅し/碇英一
★傷心の襞に射し込む冬満月/冬山蕗風
★朴の葉の大きな音に枯れ落ちる/吉田晃
★大熊手売れて手締めの冬の空/右田俊郎
★家毎の柿は豊作峡の村/脇美代子
★色合わせパレット模様の黄葉山/能作靖雄
★残菊の開ききるまで鉢に置く/祝恵子
★装飾に雪吊のあり都のホテル/大給圭泉
★舞いて散り吹かれて舞えり柿落葉/岩崎楽典
★枯れつつも神の位の大/小峠静水


▼選者詠/高橋正子
ビルの灯に桜紅葉の透くほどに
見るときは桜紅葉と空の際
落葉せる階踏むがためらわる


■第74回入賞発表(11月12日)/高橋正子選評


【金賞】
★浜木綿の実の重たさや土につく/祝恵子
白い花を咲かせた浜木綿も、実をつけると実に現実的な姿となる。その姿をそのままリアルに表現した。

【銀賞】
★欅黄葉銀杏黄葉して学生街/戸原琴
学生街は、いつの時代も若さと学問の香りがあっていいものである。欅や銀杏の黄葉に明るい落ち着きがあってひときわ学生街が浮かびあがる。

【銅賞/2句】
★板材の冬日にゆっくり乾きおり/池田多津子
あたらしい板材が、冬の日向でゆっくりと乾燥させられている。静かな道筋で見た光景であろうが、ゆっくりとした時間があっていい。

★枯れ色の種を遺して草折れる/霧野萬地郎
草は大きな自然にまかせて枯れているのであるが、そのなにも為さない、草の枯れるままの姿をに写しとった。


【特選5句】

★夫遅く木枯らしの匂いもちかえる/大給圭泉
★穏やかに冬日沈めて今日終る/山野きみ子
★靴音の連れ添い響く冴ゆる夜/青海俊伯
★束の間の夕日に白き花八つ手/加納淑子
★葛原の枯れて瀬音の近くなり/太田淳子


【入選21句】

★濃き緑しっかり冬のほうれん草/池田和枝
★椎の実の音たてて踏まる登山口/脇美代子
★障子貼る後の影も張られをり/小峠静水
★ねこじゃらし枯れて風呼び野路に揺る/堀佐夜子
★冬草の靡ける風の一つずつ/碇英一
★欅散るそれぞれの葉に遅速あり/古田けいじ
★朝粥のふうふう炊けて冬日和/小原亜子
★湯上がりの柿四つ割りの甘さかな/守屋光雅
★冬ぬくく待合室に人も無し/多田有花
★時雨るるも庭師松より降りてこず/澤井渥
★それぞれに本読む冬の夜の居間に/宮地ゆうこ
★雨雲の垂るる低さに城時雨れ/おおにしひろし
★大広田凧糸操る子らの声/能作靖雄
★大根の湿りを抱え立ち話/河ひろこ
★二三羽きてしばらく賑わい寒雀/福田由平
★立冬の風北の山から海へ/都久俊
★雪虫の紛れゆくなり津軽の野/右田俊郎
★冬陽受け蜥蜴動かぬブロック塀/岩崎楽典
★鰡くわえ飛翔のかもめ赤き嘴/石井信雄
★柚子乗せし小皿を南の窓に置く/吉田晃
★紅葉して内に秘めたるものあり/磯部勇吉


▼選者詠/高橋正子
冬紅葉雲にちりちりかがやける
冬紅葉雲ねず色をふかふかと
葱ごぼう香りて熱きほうとう鍋


■第73回入賞発表(11月11日)/高橋正子選評


【金賞】
★菊活けられ水の硬さに茎立ちぬ/脇美代子(正子添削)
活けられた菊の足元がすっきりとして、水盤の水に立つ姿が、すがすがしい。「水の硬さ」は今の季節を鋭敏に捉えた。

【銀賞】
★ストーブの炎明るい空色に/堀佐夜子
ストーブの炎が清らかですがすがしく、童話詩のような明るさとやさしさがある。こういう炎を見ていると心が満たされる。

【銅賞】
★雪払い白菜をとる鎌の先/守屋光雅


【特選5句】

★山頂の吹雪のほかは富士晴れる/霧野萬地郎
★土大根下げて農夫の白軍手/池田和枝
★牡丹榾焚かれし跡の鎮もれり/磯部勇吉
★夕空に早き月の出お茶の花/加納淑子
★綿虫の飛ぶは川面の輝く日/平野あや子


【入選19句】

★干し柿の陽を吸い込めりてらてらと/古田けいじ
★鶏小屋の水の氷を割りてやる/守屋光雅
★農業祭コスモス配る列につく/祝恵子
★土の香を掻き立て掻き立て藷を掘る/宮地ゆうこ
★鮮やかな色持て冬を迎う木々/碇英一
★ジグザグの道すじ見ゆる雪の富士/霧野萬地郎
★晩菊や新聞にそっと包まれる/戸原琴
★亜浪忌や水煙ネットに脈々と/冬山蕗風
★立冬に雨戸騒がし風徹夜/能作靖雄
★山茶花の白降り止まぬ詩仙堂/右田俊郎
★湯豆腐の鍋煮る男朝晴れて/福田由平
★銀杏黄葉はるかな丘のわが母校/池田多津子
★小包を四つ出しけり冬めく日/多田有花
★校庭の一夜に散りし大銀杏/澤井渥
★かぐわしき菊のかたみを焚く夕べ/おおにしひろし
★撮影の胸に冷たしエックス線/岩崎楽典
★九段坂空青ければ公孫樹の黄/山野きみ子
★梟と闇ひといろの莨の火/小峠静水
★吊り橋を色なき風と渡りけり/大給圭泉


■第72回入賞発表(11月8日〜10日)/高橋正子選評@


【金賞】
★花梨の実いびつのままに育ちきる/霧野萬地郎
花梨の実の形は独特で、そのよさをそっくり表現できた。色も形も文人好みか。

【銀賞】
★日の温みすでに失せたる木の実かな/大給圭泉

【銅賞2句】
★池小春水浴びの鳥つぎつぎと/加納淑子
池小春が明るく穏やかである。「つぎつぎと」には、小春日の詠者の、はずんだ明るい心がよく感じられる。

★心中の余白そのまま今朝の冬/野田ゆたか


【特選5句】 管理人/高橋信之

★立冬の部屋の香となる焼き林檎/戸原琴
焼き林檎は、寒い国や地方の食べ物として思い浮かぶが、寒さの訪れに林檎を焼いて、部屋にその香を満たし、ゆたかな時間を過ごす。「立冬」が、冬の始まりだけにその感が強い。

★千枚田ところどころに稲架置かれ/冬山蕗風
千枚田の稲は、幾枚かの田をあわせて稲架一本分となる。そこを逃さずよく観ていて、寒村の風景や暮らしぶりまでが想像できる。

★照紅葉陽の一筋をはね返す/相沢野風村
★霜除けの畝の高さに日が残る/小峠静水
★夕暮れて黄を明らかに石蕗の花/碇英一


【入選25句】

★石蕗の花入れて写真の多宝塔/堀佐夜子
★街冷えて落ちる夕日のいさぎよき/宮地ゆうこ
★下校児を追って銀杏の散りやまず/池田多津子
★足音を包む落葉のあるばかり/藤田洋子
★すべきこときちんと終えてのっぺ汁/多田有花
★飛ぶ力まだ残りをり枯蟷螂/澤井渥
★眼科歯科内科本屋に冬一日/碇英一
★吾だけのラジオに絞る冬ともし/脇美代子
★風音の荒れて裏町冬となる/山野きみ子
★下校路の黄葉に夕日の色添えり/岩崎楽典
★どの部屋も日の香欲しがり黄落期/おおにしひろし
★晴れきって一輪だけの冬ざくら/加納淑子
★雲迅し紅葉の山を越えきたる/藤田洋子
★桜紅葉一目千本吉野山/堀佐夜子
★大根を軽く刻みて朝餉かな/池田和枝
★焼け残る枯蓮畑に灰匂う/柳原美知子
★鋭角に折れて枯蓮風を研ぐ/右田俊郎
★石段を登り来し児に千歳あめ/河ひろこ
★ししゃも棚輪島の浜の冬しぶき/下地鉄
★草の上に霰の粒の青みをり/磯部勇吉
★一文字縫うようにして鯔とべり/都久俊
★重たげにやぶ蔭にゆれ実南天/古田けいじ
★街に往くバスの窓辺の底冷えて/福田由平
★雪嶺に冠れる宵の三日月/能作靖雄
★多宝塔高きより見下ろす紅葉山/祝恵子


▼選者詠/高橋正子
北風(きた)吹ける湖(うみ)を見ていて湖動く
うす紙がかりんをかたちのまま包む
釣りの子と出会う落葉の道を行き


■第71回入賞発表(11月7日)/高橋正子選評@


【金賞】
★対岸の家並みに今朝の冬日さす/多田有花
冬の朝の清潔な景色が、明るく真っ直ぐに詠まれていて、心の裏にさえも濁りがない。

【銀賞】
★黄落や日の当りたる一本目/加納淑子
一本目の樹は、もっとも自分に親(ちか)しい樹なのであろう。日を浴びている姿に人のような暖かさがある。黄落期の美しい風景を新しい感覚でとらえた。

【銅賞】
★いただいて両手に柿を持ち帰る/祝恵子
ささやかな行為にも、輝くようなときがある。つややかな柿の実の色が両手からこぼれそうである。柿の実の熟れる頃のさわやかさでほのかな暖かさが生活の行為を通して詠まれた。

★海鳴りのはげしさ増しぬ今朝の冬/平野あや子

【特選5句】

★立冬の日向の中に句集読む/堀佐夜子
読書の秋ともいうけれど、本当に読書の楽しみが増すのは、辺りが静かに、寒く厳しくなる冬ではなかろうか。立冬の日向の日差しのなかに、集中して句集を読んでいる姿に心底の楽しさがある。

★家中の鏡拭きあげ冬に入る/多田有花  
★短日の川より暮れる船灯し/山野きみ子
★子らと焼くショコラケーキや冬始/柳原美知子
★立冬の一と日を晴れて山光る/磯部勇吉


【入選22句】

★一塊の光りとなりて秋の船/戸原琴
★冬潮の冷たき色より鯛引きぬく/おおにしひろし
★白鳥の胸を広げて立ち上がる/磯部勇吉
★日は西に欅黄葉に満ちて降る/宮地ゆうこ
★この秋の始めも終りも風白し/小原亜子
★冬立つ日北の大地の夕焼ける/右田俊郎
★赤とんぼ日当たる石を掴みをり/澤井渥
★光散り幾本線路冬に入る/相沢野風村
★夢うつつ木の葉の落つる音なるや/福田由平
★少子化の村にあふるる熟柿かな/河ひろこ
★木枯しや後追う子供灯油車/津村昭彦
★風に乗りもみじひとひら部屋に来る/池田多津子
★低気圧頭上にありて冬に入る/都久俊
★霜の朝落ち葉の音のかさこそと/守屋光雅
★冬闇に捩じり上れる床屋の灯/碇 英一
★思い切り一歩踏み出す今朝の冬/青海俊伯
★囮リ道月又歩む屋根づたい/小峠静水
★夕冷えに街を匂わす惣菜屋/大給圭泉
★手ひねりの粘土細工や冬うらら/池田和枝
★炒り鍋の銀杏絶えず転がされ/霧野萬地郎
★柔らかく飴色に煮え飛騨大根/古田けいじ
★冬立つや手を振り送る園児バス/岩崎楽典


▼選者詠/高橋正子
おおかたは散れるポプラに海疾風
雨降れる柞(ははそ)の渓の明るかり
冬鵙の天に通じる声一つ