■第60回入賞発表(10月23日)/高橋正子選評 【金賞】 ★行く雲に白鳥の声暮れている/守屋光雄(正子添削) 日暮れに鳴き交わす白鳥の声が、空高く響いて北国の遥かへと広がる奥深さがある。行運(ぎょううん)は、下5の「暮れている」に合わないので添削した。 【銀賞】 ★閑けさに木の実の落ちる音と知る/小峠静水 この静かな心持ちは、芭蕉的心境であろう。自然に耳を澄ませ、あたらしく「木の実の音」を知る。自然に深く入った心境がいい。 【銅賞】 ★稲干さる穂先滴り雨上がる/祝恵子(正子添削) 稲架に架けられた稲の穂先から静かに雨が滴り、ひんやりと雨が上がっている。晩秋の静かで、晴れやかな気持ちが良く出ている。 【特選5句】 ★奈良山や古墳を包む鵯の声/碇英一 古墳を包むかのように鵯がしきりに鳴いて、奈良山にはゆっくりとした時がある。作者は、自然体でそれを感じ表現した。その風景は貴重。 ★残り咲く萩の紅濃き雨あがり/岩本康子 ★鍬の影ながく花野を戻りけり/宮地ゆうこ ★すすき原揺れの向うに日本海/河ひろこ ★凛々と静けさとどめ添水鳴る/青海俊伯 【入選15句】 アフリカ海外詠 ★朝もやにキリンの首の高かりし/多田有花 オーストラリア海外詠 ★早春の山の端十字の星見つけ/霧野萬地郎 ★阿武隈の段々畑蕎麦の花/冬山蕗風 ★釣瓶落し光のおもさ顔に受く/宮地ゆうこ ★紺深き今朝の潮路や秋更くる/平野あや子 ★朝の日に黄色ふくらむ大輪の菊/柳原美知子 ★白鳥の呼び合う声の夕空へ/磯部勇吉 ★ポットの湯また沸きだしぬ夜長かな/都久俊 ★月冷えてセーター薄し夜半かな/下地鉄 ★ホグランプ紅葉を照らし走り去り/河野斎 ★鳥渡る街に人力車夫走る/山野きみ子 ★洗面所玄関厨杜鵑草/古田けいじ ★白き風車ゆくり廻るよ湖の秋/堀佐夜子 ★式部の実落ちし水際のせせらげる/おおにしひろし ★落葉入りふるさとよりの届きもの/大給圭泉 ▼選者詠/高橋正子 萩もみじ草と靡きて野の一草 秋草に肩先冷ゆをおぼゆまで 秋草の枯るるは匂いほかほかと ■第59回入賞発表(10月22日)/高橋正子選評 【金賞】 ★木の実落ち流れに深き音の立つ/碇英一(信之添削) 木の実が落ちる流れが澄んでいる。木の実が落ちれば、深い音となる。そこに静かで深々としたのもがある。 【銀賞】 ★二つ割り津軽の林檎の蜜の芯/右田俊郎 イメージがはっきりした即物的な句であるが、余計を言わないだけに、作者の思いをはっきりと伝えている。ふるさと津軽への賛歌と懐かしさである。 【銅賞】 ★五分搗きの温もり残る今年米/青海俊伯 【特選5句】 ★川渡り次ぎなる渡船へ秋を歩く/祝恵子(信之添削) 一つ、川を船で渡り、また次の船に乗る。その船着場まで秋の風景を楽しみながら歩く。川の水も、草も秋のただ中に輝いている。 ★秋桜揺らぐことなく月に照る/藤田洋子 ★晴れた朝ま白に障子張り替える/池田多津子 ★泡立草分けてひとすじ径のあり/磯部勇吉 ★秋夕日沖より射して海眩し/山野きみ子 【入選19句】 ★秋の虹相模湾までまたぎけり/脇美代子 ★露けさの野辺にある椅子遊び蔓/平野あや子 ★井戸水にナメコ選り分け手に滑る/守屋光雅 ★登校生菊の玄関に迎えられ/日野正人 ★菊の香へ鰈を吊るし干しにけり/柳原美知子 ★キリマンジャロの雪をはるかにキリン立つ/多田有花 ★草紅葉車椅子には近過ぎて/堀佐夜子 ★庭の菊小さく光る蕾増え/古田けいじ ★沖に日の差して一湾鰯雲/小原亜子 ★伸びるだけ伸びて吹かるるつた紅葉/小峠静水 ★岩清水集めて流る谷紅葉/能作靖雄 ★秋の虹虹脚消えて雲となる/相沢野風村(正子添削) ★篠山の枝豆のような友一人/都久俊 ★散り敷きし木犀の花遠回り/おおにしひろし <オーストラリア春の旅:Tinbinbilla自然保護区にて> ★春浅し穴戻りするはりもぐら/霧野萬地郎 ★秋の夜闇ゆるがして救急車/大給圭泉 ★高速路まっすぐ空へカンナ燃ゆ/宮地ゆうこ ★道のべの白き匂いや蕎麦の花/冬山蕗風 ★雨未明木犀だけに降りかかる/吉田晃 ▼選者詠/高橋正子 すすきの穂ほどけしものがみなゆるる 栴檀の黄葉(もみじ)に雲の通いけり 秋風の蝶を荒ばせ音もなし ■第58回入賞発表(10月21日)/高橋正子選評 【金賞】 ★小鳥来て声澄みわたる厨にも/柳原美知子 小鳥が来る嬉しさは、誰にもあるが、毎日の厨ごとに、小鳥が来てくれると、天気もいい日なのだろう心がはずむ。その気持ちが「澄み渡る」。 【銀賞】 ★雨上がる澄んだ空から銀杏の実/古田けいじ 雨上がりのひんやりした澄んだ空から、銀杏の金の実が落ちる。透明な句。 【銅賞2句】 ★山紅葉貫ぬく道のひとつあり/相沢野風村 ★藁塚の整然とあり影も添う/池田多津子 【特選5句】 ★ビル前に林檎売りいて寡黙なり/祝恵子(正子添削) ビルの前で、赤い林檎を売る人は、寡黙。林檎のつやつやとした明るさに比べ、林檎売りの寡黙な思いが対照的。 ★子を抱けば秋風頭上を通り過ぐ/脇美代子 子は、現実は「孫」かもしれないが、「孫」の呼称は、「父・母・子」が表す語にくらべて、普遍性に欠ける。「子」としたので、この句を誰もが共有することができるようになった。抱く子のぬくみ、秋風の吹く空の高さをよく感じさせてくれる。広々としたところへ出てのこと。 ★飛行機の音無き高さ秋深し/堀佐夜子 ★陰げる山照る山重ねて山粧う/小峠静水 ★秋時雨過ぎて夜明けの星澄める/おおにしひろし 【入選20句】 ★丘ひとつ小花敷き詰め春祝う/霧野萬地郎 ★竿竹の娘売り声蔦紅葉/福島節子 ★抱く児の足ふっくらと秋日ざし/山野きみ子 ★さくら散る町を飛び交う白オオム/霧野萬地郎 ★石塔や衆生のコスモス盛りなる/碇英一 ★コスモス畑見渡すかぎりの明るさに/宮地ゆうこ ★月の出を山並みに置き仕事終える/日野正人 ★朝の日を受け那須岳の初紅葉/冬山蕗風 <キリマンジャロ> ★頂の振り向くたびに遠くなり/多田有花 ★夕風にすすき散らされさざめけり/右田俊郎(正子添削) (長崎県平戸島を訪ねて) ★南蛮の香り残れる島の秋/岩本康子 ★山茶花や驟雨にけむる稲荷堂/加納淑子 ★午睡(うまい)さむ児に満つ笑顔木の実独楽/平野あや子 ★子供の絵筋で表す秋の風/都久俊 ★雨樋の落葉の堰に滴れる/磯部勇吉 ★現より夢に入り来し秋の蚊や/石井信雄 ★山道の取りて届かぬ通草かな/津村昭彦 ★風ぐせのつきし白萩寄りあいて/大給圭泉 ★秋風が自転車の声を飛ばしおり/河ひろこ ★日の落ちしあとの縁側うすら寒/金子孝道 No.1509 2002年10月22日 (火) 08時21分 ▼選者詠/高橋正子 虫の音の高まり暮れる木のマッス 秋夜風篁煽りきりもなし 林檎手に送られきしがほのぼのと ■第57回入賞発表(10月18日〜20日)/高橋正子選評 【金賞】 ★稲架解かれ束ねる竹の軽く鳴る/脇美代子 稲架が解かれていく様子を丁寧に見て、稲架に使われていた竹が束ねられ、軽く触れ合う音を聞き留めた。「軽く鳴る」に作者の素直な思いがあってよい。 【銀賞】 ★秋の雨水平線より晴れてきし/岩本康子 秋雨がこのように詠まれると明るい。遠くはるかに心をやり、そこに晴れてゆく日の光りを感じた。色彩と光りとが醸すニュアンスがいい。 【銅賞2句】 ★秋の夜の耳に近づく風の音/相沢野風村 ★占いに五指を開いて秋の暮れ/河ひろこ 【特選5句】 ★野葡萄のそれぞれに色深めけり/磯部勇吉 野葡萄の色づき具合がそれぞれに違う。少し日向に熟れるもの、日蔭のもの。山にあればこその自然の生んだ色がいい。静かな心境がしっかりと詠まれた。 キリマンジャロ海外詠 ★サングラス空と氷河を映しけり/多田有花 一緒に登った仲間のサングラスに映る空と氷河。雄大な景色の一部が映っている。晴れ晴れと清々しい気持ちを、サングラスをかける人との繋がりで表した。 ★雨止んで落葉色もつ石畳/柳原美知子 ★秋雨に濡れて壁画の魚飛ぶ/祝恵子 ★峡谷を進めば狭き空高し/池田多津子 【入選29句】 オーストラリア海外詠 ★機窓より春暁に見る地球の弧/霧野萬地郎 ★鰯雲街残照の中にあり/大給圭泉 ★視野全て月に濡れたる蒼さかな/小峠静水 ★川澄めり堰落つ水の泡連れて/澤井渥 ★月残し飛機次々と離陸せり/戸原琴 ★雲の下雲が流れる野分けあと/大給圭泉 ★秋風に突き放されてしじみ蝶/山野きみ子 ★萩白し水は碧に重くなり/藤田荘二 ★鶺鴒鳴く小さき朧の日の空に/碇英一 ★街の灯を優しく包む後の月/下地鉄 ★刈田には藁焼く煙日暮れまで/右田俊郎 ★減反の峡にコスモス満ち満ちて/太田淳子 ★星月夜漁り火強く瞬きぬ/加納淑子 ★日矢射して石鎚遠き芒原/おおにしひろし ★夕日射す竿一本の唐辛子/岩崎楽典 ★秋晴や苔青々と八一歌碑/野田ゆたか ★萩散りて池深きより静まりぬ/藤田荘二 ★白鳥の一群渡るラグビー場/守屋光雅 <ゴルフ場にて> ★球それて紅葉始めし木のほうへ/古田けいじ ★朝寒や喉に絡みし粉薬/池田和枝 ★稗の穂の刈り捨てられし夕間暮れ/吉田晃 ★錦秋の能勢路を終の棲家とす/安丸てつじ ★春日野や瀟瑟のなか角を切る/大石和堂 ★晩稲刈る棚田吹き舞う風の声/能作靖雄 ★大漁旗かかげし浜の秋祭り/平野あや子 ★正面に落ちゆく夕陽からすうり/宮地ゆうこ ★葉を落とし青空覗く熟柿かな/冬山蕗風 ★運動会ビデオと並び吾子走る/高橋秀之 ★大鳥居潜りてよりの夜店の灯/堀佐夜子 ▼選者詠/高橋正子 マイセン展 マイセンの黄薔薇や秋を深めたる 日本語の山・河美しく秋深き 石塔に葉を深ぶかと花コスモス ■第56回入賞発表(10月17日)/高橋正子選評 【金賞】 ★穂薄の向こう水平線までの海/山野きみ子 若々しく、しかも安定した句。穂薄も秋の海も、光りに満ちている。 【銀賞】 ★草の香に杭うちて立つ祭の灯/祝恵子(正子添削) 草のあるところに杭を打ち、祭りの灯を灯す用意をする。祭りを迎える嬉しい気持ちが、静かでほのぼのとしている。 【銅賞2句】 ★噴水の勢い白し秋の空/守屋光雅 澄んだ秋空に上がる噴水を真正面から詠んで、明快である。「勢い白し」に、水の力が十分に詠まれている。 ★今日新た風をくぐりて小鳥来る/藤田洋子 【特選5句】 ★高々と竹馬揃う運動会/古田けいじ さわやかに晴れた空の下での運動会。子どもたちが上手く竹馬を乗りこなして、勢ぞろいした。父兄席から感嘆の声が上がるときでもある。竹馬がさっさっと土を擦る音まで聞こえてきそう。 ★焼き椎茸かおりの中で裏返す/宮地ゆうこ ★山紅葉影移り去り鮮やかに/相沢野風村 ★真四角の刈田に風の急ぎ行く/青海俊伯 ★小鳥来る肩のあたりの気配ふと/小峠静水 【入選19句】 ★鵙烈し授業開始の静寂に/吉田晃 ★古代米両手に抱えて稲木へと/池田多津子 ★秋野菜朝日に輝く小さき畑/岩本康子 ★秋風にシャツ膨らませ坂上る/馬場江都 ★なお高く鳴いて夕鵙山へ入る/藤田洋子 ★空蒼くコスモスそよぐ傾斜面/能作靖雄 ★空に浮くものみな光り秋高し/磯部勇吉 ★遠き帆の沈み行くなり秋の果て/右田俊郎 ★それぞれの木の香の違う庭手入れ/澤井渥 ★玄関の大壷野菊どっと活け/おおにしひろし ★阿武隈川のほとりに淡く蕎麦の花/冬山蕗風 ★あの山もこの集落も秋高し/加納淑子 ★月残し飛機次々と離陸せり/戸原琴 ★鳥の声しきり金木犀の香を揺らし/柳原美知子 ★海風の運ぶ潮の香秋深し/高橋秀之 ★サクと切り白き一片林檎売り/脇美代子 ★群れぬけし牧場の山羊も霧の中/平野あや子 ★鉋屑匂う団地のカンナの黄/堀佐夜子(信之添削) ★校庭にチャイムの響き秋の暮れ/大給圭泉 ▼選者詠/高橋正子 枝豆を脇に抱えて青き夜 新聞にくるまれ枝豆玄関に 玄関灯きらめき点きぬ夜が深し |