▼月間賞2000年8月〜2003年10月
▼年間賞/2002年
俳誌「水煙」秀句
伝言板

11月賞/2003年
ネット新俳句月間賞/俳誌水煙
高橋正子選評

最優秀
麦の芽の見えて大気の満ちたれる
野田ゆたか

麦の芽の緑に、野があたらしく蘇るようだ。その麦の芽
の息づく大気は、透明感があって十分である。

優秀12句

弾む児に毛糸の帽子良く似合い/山野きみ子
毛糸の帽子を冠らせてもらった幼い子どものあどけなさ
が、「弾む」によく表されている。「良く似合い」は、 客観
的な見方だが、児へのやさしい眼差しが感じられる。

冬星座むすべば空のうごきだす/宮地ゆうこ
星座が組み終われば、すなわち、すっかり夜空となると
、星座は眼に明らかとなって、空を巡り始める。星空の
動きに楽しさがある。

雪吊りの張り詰めて日にきららかに/加納淑子
雪に備えての雪吊りだが、張られたばかりで、まだ雪を
待つ状態。張り詰めた縄がきらきらと日に、風に輝いて
いる。清らかな明るさの句。

大根の太き曲がりの瑞々し/日野正人
大根を捉えて、力強く、リアル。気宇を感じる。

旅鞄最後に取り出す木津の柿/祝恵子
旅を終え、旅の鞄からいろいろ取り出す最後が、木津の
柿だったという。木津の里の見事な柿が旅鞄の隅から出
てきて、照るような柿の色に、旅を終えたほっとした気 持
があり、心なごむ句。京都木津の柿は、野田ゆたかさ ん
が水煙フェスティバルに送ってくださったもの。

吾が机に島の冬貝置きたのし/おおにしひろし
伊予北条の鹿島で拾った冬の貝。机に置いて貝を拾った
時のことなど思い出し、心楽しくなっている。「たのし 」とい
うから、島の日和も穏やかな小春日和と思える。

樗の実伊予の落暉の赤々と/碇英一
樗は、暖地に自生する樹で、それに配される伊予の落暉
は、ぽってりとして赤いのである。伊予の温暖な風土が よ
く表れている。

村つなぐ冬山低く暮れにけり/相沢野風村
村から村へと連なる山を「つなぐ」と言った。そこに人 の
生活を見、その山が静かに暮れているさびさびとした 冬
景色が印象的。

わさわさと蕪の葉ゆすり抱き帰る/平野あや子
「わさわさ」の音に、蕪を抱く人のざっくばらんな明る さ
が読み取れる。いい生活俳句。

押し車大根葉ごと乗せ帰る/堀佐夜子
押し車に乗るほどの大根であるから、そんなに沢山では
ないが、よく育った大根は、葉もゆさゆさと押し車をは み
出すほどで、ゆたかな緑を目にする喜びがある。

蓮根掘る節を連ねる逞しさ/平田 弘
蓮根掘りは、大変な力仕事。冷たい泥底か節を連ねて現
れた蓮根は、逞しく、鉛色である。蓮根も、蓮根を掘る 者
も逞しい。

朝日射す土間に筵の藁を打つ/今井伊佐夫
朝日が土間深く差し込んでくるのは、冬である。土間に
明るい朝日を入れて、新藁を叩いて、筵を織ろうとする
農家の生活が、じっくりと詠まれた。

新人賞
木枯らしが吹いて夕富士くっきりと/田中輝男
木枯らしが吹き、塵が払われて、はっきりと夕富士が見
えたというのですね。。視線が富士山に集中しているとこ
ろがいいですね。                  

鋏音高く鳴らして菊を切る/家入克巳
鋏で切り取れば、菊はことによく香りますね。鋏の鉄音
と、菊の匂いには、ひびきあうものがありますね。原句
では、状況があいまいですので、添削しました。   

10月賞/2003年
ネット新俳句月間賞/俳誌水煙
高橋正子選評

最優秀
風が来て稲田に実りの音鳴らす/古田けいじ
稔田は、風が吹かなければ、音を生まない。風が吹くと
、稲穂が擦れ合って、さらさらと音がする。それが実り
の音。その音を心に受け止める。

優秀12句

朝の菜の濡れて冷ゆるを抱え来る/宮地ゆうこ
朝の菜は、今ごろなら、露で濡れているばかりではなく
、急に下がる気温で冷たい。その菜を濡れるのも厭わず
、取り立てを脇に抱えて来る、飾り気のない健やかな態
度が読み取れる。

こすもすの揺らぎつ花の数増やす/加納淑子
今、真っ盛りのコスモスが咲き継ぎ、やわらかな風に吹
かれている様子を明るく、優しく表した。広がる世界が
ある。

霜降の朝の空気を部屋部屋に/安丸てつじ
朝明けると、部屋の窓から朝の空気を入れる。折りしも
今日は霜降。ひんやりと、身に引き締まる空気がどの部
屋にもある。

風見鶏秋の高さの空にあり/祝恵子
いつも見る風見鶏であるが、今日は、空の中に、高く、
くっきりとその姿が見える。澄んだ秋空の高さを知らす
風見鳥でもある。

欅紅葉ざわめき始む午後の陽に/多田有花
欅のさざめくような小さな葉がすっかり紅葉し、朝の内
は、静かに立っていたのだろう。午後になって風も出て
、陽も差して、秋の声がここに、「ざわめき始む」。

荷のひとつ紅葉山抜け赴任了ゆ/相沢野風村
こじんまりと纏められた引越しの荷物が、紅葉の山を越
えて、新しい土地に着いた。そのことで「赴任」という
大事が終わった。紅葉と赴任という人事が、よく和合し
ている。

海見える丘に椎の実拾いけり/藤田洋子
表現に無理がなく、さらりとした句の調子に好感が持て
る。海の見える丘に拾う椎の実は、懐かしい心情を呼び
起こし、海に心を開かせてくれる。

噴水の撓み弛めり秋の苑/碇英一
噴水が吹き上がって落ちるときの水の姿が、秋色を深め
る苑に、輝いて描かれている。

どんぐりの袋にいっぱい透けて鳴る/池田多津子
どんぐりをビニール袋に拾い集めて、よく聞けばどんぐ
りが触れ合って鳴っている。余計を表現しないで、生き
生きとした子どもの様子を想像させてくれる。

秋光の海よりあふれ窓辺まで/戸原琴
秋の海の光が届く窓辺の部屋が、どこまでも明るく澄ん
でいる。海の色も青く澄んで光に包まれて、おだやかな
気持のひとときがうれしい。病中吟。

風上も風下も匂う金木犀/能作靖雄
風上も、風下も吹く風は、軽く向きを変えて吹く風であ
ろう。今は、辺りの空気を染めて匂う金木犀の花ざかり
である。軽やかでさわやかな句。

真っ直ぐに秋の朝陽の我に射す/山中啓輔
秋も深くなれば、真っ直ぐに差してくる陽を暖かく、眩
しく感じる。それが自分へと躊躇わず差してくれば、太
陽との直のつながりが素晴らしいことに思える。

新人賞
佇めば赤とんぼうのわが視野に/志賀たいじ
佇んでおれば、初めて「わが視野」に入る赤とんぼう。
盛んに飛び交う赤とんぼうではなく、一匹が空気に紛れ
るように、あるいは、どこかにじっと止まっている蜻蛉
である。

9月賞/2003年
ネット新俳句月間賞/俳誌水煙
高橋正子選評

最優秀
山迫る町に秋水流れ入る/安丸てつじ

山からの秋水と読める。「流れ入る」は、「山迫る町」
に対しての的確な表現で、急ぎ流れる澄んだ水のきらめ
きと音が伝わってくる。秋水の流れ入る町が生きている。

優秀12句

秋オリオン仰ぎてザイル結びけり/多田有花
モンテローザ登山の句。命の綱のザイルを結ぶのに仰ぐ
空に、オリオン座がその形を明らかに、輝いている。な
んの他の雑念も許さず、ザイルはしっかりと結ばれたこ
とであろう。

秋潮の島に分かれてまた逢えり/霧野萬地郎
小さな島であろう。島に当たって別れた潮は、また巡っ
てきて逢うことになった。秋潮の紺青の流れのさわやか
さが心身に満ちる。

信濃路へ入るコスモスを揺らしつつ/古田けいじ
信濃は今の長野県のことであるから、作者の住んでいる
名古屋から信濃へ車で向かっているとき、コスモスも咲
いて、ここからは「信濃路」だと思うと、目的地への期
待が膨らむ。レベルの高い句。

秋冷の大き三日月真向かいに/碇英一
秋の宵の冷たさが降りてくる今夜は、三日月がちょうど
真向かいに見える。くっきりと金色に輝く三日月に対す
る驚きである。

青毬の日へ転げ出る通学路/脇美代子
「転げ出る」ものの楽しさは、どこにでもある。子ども
の通学の路に、弾み出た青毬のみどりが、光を受けて輝
いている。里の山の通学路は、いまだ健在である。

八千草の香の残る手に弁当を/野田ゆたか
釣りなどに出かけて、もろもろの秋草を手に触ったとき
の匂いであろうか。弁当を広げる一時が、しみじみとし
た気持に満たされている。「八千草」は、歳時記によっ
ては、季語となっていないが、「千草」、「秋草」と同じ
意で、秋の季語とした。この句には、秋の季感がある。

咲き満ちし女郎花ざくざく束に刈られ/おおにし・ひろし
女郎花は目には、繊細で、清楚に映るのであるが、実際
は、たいへん茎も丈夫な花である。ざくざくと束にされ
るのは、女郎花の「実」の姿のあらわれといってよい。

枝豆の実の充実を籠に受く/守屋光雅
枝豆を一つ一つ、籠に摘み取っていっているのであろう
。手に触って、また、籠に落ちる音を聞いて、確かな実
の入り具合を、つまり充実を体で知ることである。

綱引きの一直線の崩れおり/相沢野風村
綱引きの、緊張した決着の一瞬から解き放たれた綱の崩
れた様が、人間の心の緊張と解放そのもののように詠ま
れている。根源的な句の楽しさがある。

稲の花一両列車の速度増す/野仁志水音
列車から見える稲の花が、目に生きいきと新鮮に映って
いる。旅を続け、一両列車の加速を体によく感じるほど
になっている。秋口の田園風景がのどか。

畝長く秋夕映の水を遣る/宮地ゆうこ
秋蒔きの種を蒔いたり、植え付けたりの農作業のあと、
長々とできた畝に水をたっぷりと遣っている。すでに夕
方になって、夕映えの畝や水や人が美しい。心満たされ
るひととき。

数本の摘みしコスモス母に出し/高橋秀之
原句は、「秋桜」と書き、「コスモス」と読ませている
ようだが、コスモスと読むなら「コスモス」と書くべき
。コスモスを摘んできたのは、幼い子どもであろうが、
小さな手には、数本で溢れるほどである。きれいな花を
母に摘んであげる子どもらしい優しさと、それを受け取
る母の温かさが滲んでいる句。           

新人賞
秋うららあの山この山くっきりと/渡辺酔美
「山澄む」の季語もあるように、秋は、空だけでなく、
山も澄んでくっきりと見えます。うららかな秋の日のも
霞むことなく、鮮やかな印象ですね。あの山、この山と
楽しそうにながめている様子が感じ取れます。

8月賞/2003年
ネット新俳句月間賞/俳誌水煙
高橋正子

最優秀
露草を踏みつけ朝の測量士/加納淑子

露草の花は朝だけのもので、澄み通った青い色が、「露
けき朝」を象徴している。その花を測量のために、踏み
込んでいる測量士も「露けき」存在となっている。
(高橋正子)

優秀13句

ぎす鳴いて軒重ね合う蜑の路地/平野あや子
軒の重なる漁村の狭い路地にも、ぎすが鳴き、ひっそり
と静かな秋がある。(高橋正子)

栗の棘まだ青々と日は昇る/小峠静水
作句の対象を真っ正面から見た。その姿勢があってこそ
、自然の生命が見えてくる。自然の本質が現われてくる
。(高橋信之)

さわやかに高原走る陸上部/今井伊佐夫
よく日焼けした、しなやかな体で次々と走ってくる陸上
部の生徒らは、高原の風の中で、爽やかさそのもの。爽
やかさの象徴である。(高橋正子)

鳴く蝉にひたすら青き楡大樹/おおにしひろし
楡の大樹はあくまでも青く茂って堂々としていますが、
その中で鳴く蝉もしっかりと今を鳴いています。
(高橋正子)

垂直に日を待つ稲穂まだ青し/霧野萬地郎
日が指してくる前の稲穂の青くて、真っ直ぐである景色
。すがすがしい空気が流れている。(高橋正子)

赤とんぼ高さ保って向かい合う/日野正人
赤とんぼが宙に止まっている様子であるが、あたりの空
気が澄んで感じられる。(高橋正子)

流灯となりても行く方激しかり/金子孝道
流灯は静かに流れ行くものと思いがちですが、思えば、
そんなに平坦な水を流れて行くばかりではありませんね
。波にもまれたり、海へまで行けばどんなことになるの
でしょう。そんな思いを抱かせてくれる流灯です。
(高橋正子)

この竹と決めて朝伐る七夕竹/藤田洋子
七夕竹を選びとる思いに、七夕が現実化し、現実が詩的
になっていますね。七夕の行事を楽しんでいて、さわや
かです。(高橋正子)

寝転べば峰より峰へ天の川/藤田荘二
登山での作。「峰より峰へ」は、作者が高い位置にいる
証拠で、天の川と峰との近接感に、この句の新鮮な感動
がある。雄大でのびやかな句。(高橋正子)

研ぎ上げし包丁さくりと西瓜切る/山中啓輔
西瓜がさくりと切れるほどの包丁の刃の広さに、刃物の
冷たさが良く出ている。よく冷えた西瓜を美味しそうに
、切り分けられた。(高橋正子)

日々すべきことをなしつつ新涼に/多田有花
作者が、モンブランへ発つ直前の句であるから、その準
備のための、「日々すべきこと」であろう。用意周到な
計画と準備があって、初めて登頂は成功する。日々成し
終えていく内に、季節も新涼へと移り変わっていった感
慨がおおきい。(高橋正子)

水平に蜻蛉駅舎を通り抜け/山野きみ子
真っ直ぐに、水平に飛びながら、どこでも飛べる、自由
な蜻蛉の世界は広い。その蜻蛉の世界に入った駅舎が、
実に涼しそうである。(高橋正子)

塾の子に夏帽子かぶせ送り出す/野仁志水音
塾の子は、低学年なのであろう、帽子をきちんとかぶせ
てあげて、家へ送り出した。勉強を教えて終わりではな
く、子どもが帰るときも、向き合って対応しる若い教師
のういういしい姿がある。(高橋正子)

新人賞
白粉の花を銜えて軽く吹き/平田 弘
小さいが、ラッパ形をしている白粉花を銜えてみて、軽
く息を通した。白粉花のいい香りが鼻先をくすぐり、花
から小さな音さえ生れそうである。(高橋正子)

7月賞/2003年
ネット新俳句月間賞/俳誌水煙
高橋正子

最優秀
ラムネ飲む江ノ島青く傾ぎおり/大給圭泉
ラムネを逆向けて飲むと、体までが傾く感じで、青々と
した江ノ島が傾く。夏真っ盛りの海辺がラムネのように
さわやか。(高橋正子)

優秀10句

手にむすぶ源流なりし滴りを/野田ゆたか
源流の滴を手に掬んだときの冷たさ、清らかさが、体に
も沁み通るようである。(高橋正子)

河三つ出合い蜻蛉生まれけり/おおにしひろし
河が出合うところには、水にきらめきがある。三つの河
が出合えば、川波にさざめく光りも増える。そこで生ま
れる蜻蛉の生命は、透明感があって、いっそうのこと輝
いている。(高橋正子)

コスモスの揺れ合いながら陽を送り/下地鉄朗
コスモスの花が群れ咲いて風に揺れ、陽を空へ、向こう
の方へと送っている。コスモスが咲いているのは、なだ
らかな丘であろうか。(高橋正子)

梅雨空に材木軽やかに匂う/山野きみ子
新しい材木の匂いが、梅雨空の下にほのかに漂って、生
活する町が生きいきと蘇るようである。こんなときは、
こころなし、一人気持が華やぐ。(高橋正子)

岩肌の硬きより湧き滴れる/吉田 晃
岩肌を湧き出て滴る水に焦点をしぼり、クローズアップ
して、一枚の写真のように詠んだ。硬い岩肌と、柔らか
で透明な水が硬軟、対象的でありながら、滴りとなって
一体化しているところに涼しさがある。。(高橋正子)

窓からの涼しき風を受け学ぶ/野仁志水音
「学ぶ」が自然であり、素直で、実がある。窓から涼し
い風を受けて学ぶ日もあって、落ち着いた態度がよい。
(高橋正子)

視野一面烏賊火連なる砂丘沖/太田淳子
鳥取砂丘の沖に、烏賊火が連なり、夏の夜の風物詩を繰
り広げている。手前に砂丘、向こうに見渡す限りの烏賊
火の沖を配し、広く大きな景色が詠まれた。(高橋正子)

差し出さるなすの丸みを両の手に/祝恵子
ありふれた日常の風景だが、作者の確かな生活がそこに
ある。私の好きな句。 (高橋信之)

風涼し籠いっぱいの青野菜/宮地ゆうこ
籠に溢れるほど収穫された夏野菜は、見た目にも涼しい
が、風が吹いて肌身にも涼しさが感じられ、句に気負い
がないのがよい。(高橋正子)

朝取れのもろこし箱に何本も/日野正人
朝取ったばかりのとうもろこしの緑色が、目に爽やかに
映る。幾本も並べられると、その露に湿った緑色は、夏
の朝のすがすがしさそのもとなるのである。高原の空気
が感じられる。(高橋正子)

新人賞
噴水立って音が生まれる朝の池/山中啓輔
朝早く、噴水が立ち始めるときを捉えた句で、静かな池
の平面から立ち上がって噴く水が、音を生んでいる。水
の音であり、噴水そのものの涼しい音である。夏の朝の
静けさがよく捉えられている。(高橋正子)

水煙ネット事務局